【コロナ医療現場の今】㊦ 来島者の感染増 感染予防 打つ手なく

2022年08月23日

社会・経済 

奄美の医療提供体制の現状について語る稲源一郎医師=19日、奄美市名瀬

3年ぶりに行動制限のない夏を迎え、行楽地やイベント会場などが人出でにぎわう今年の夏。奄美群島にも多くの帰省客や観光客が訪れた。一方、奄美大島などでは滞在中に新型コロナウイルスの感染が確認される人も増加。自宅療養ができない地元住民や島外からの旅行者は、島内の宿泊療養施設で療養せざるを得ない。行動規制をしない「ウイズコロナ」の夏。医療関係者は「リスクのある後期高齢者や乳幼児と接する場合は特段の配慮を」と呼び掛ける。

 

■3分の1が旅行者

 

県新型コロナウイルス感染症療養調整課によると、奄美大島に二つある宿泊療養施設の部屋数は全131室。20日現在、60・3%に当たる79室が使用されている。大島郡医師会によると、「3分の1から4分の1が島外からの訪問者」という。県は「旅行者は陽性が確認されると行き場がない。症状の重さに関わらず優先的に入ってもらっている」と話す。

来島者の多くは、事前にPCR検査を受け陰性を確認して来島しているという。課題は検査が難しい幼児などの子どもたち。奄美市名瀬で医療機関を開業する稲源一郎医師は「検査用の唾液が採取できるのは5歳児以上ぐらいから。4歳児以下は鼻から採取するしかないが、検査を嫌がる子どももいて難しい」と話す。

帰省客に対しては「長期滞在であれば来島後3日間ぐらいは家族と会うのを我慢し、症状が出なければ祖父母に会うのが望ましい」と話す。

 

■効果薄い行動規制

 

「奄美大島の警戒レベルは『5』。来島や外出、イベント開催に行動規制は求めていませんが、医療機関は危機的な状況」。

奄美市から毎日配信される広報には、行動規制を促す文言はない。医師会は「今、行動を規制してもそれほど変わらないのでは」との見方を示す。

稲医師は、陽性を確認した患者からこう言われることがある。「こんなに感染対策をしているのに、なぜかかるのか分からない」。

「患者が分からないということは(感染経路を特定できないため)行動を規制しても変わらないということ。防ぎようがない」と稲医師。

奄美大島5市町村などでつくる新型コロナウイルス感染症対策本部会議でも、「対策強化には的を絞る方が効果的」という指摘があり、出席者は「重症化リスクの高い後期高齢者や、乳幼児らと接する場合は特段の感染予防への配慮を」と注意を呼び掛ける。

 

■医療崩壊「ぎりぎり」

 

医療崩壊へと進むのか。医師会は「ぎりぎりのところ」という。「医療崩壊とは、(医療の手が届かずに)助かる命が助からないとき。その例はまだ耳に入っていない」

現状はまだかろうじて必要な入院調整を図ることができ、自宅療養中の患者の把握もできている。懸念するのは、これ以上自宅療養者が増えた時に、患者の容体について経過を把握することができないまま症状が悪化し、独りで死亡するケースだ。

医師会は「そうした事態があってはならない」としているが、予断を許さない。

子どもたちの夏休みも終わりに近づき、やがて新学期。「これだけみんな感染予防を頑張っている。いたずらに怖がらないでいい。でも怖がり過ぎないのもいけない。相談しやすいかかりつけ医を見つけることが大切だ」と話している。