減り続けるタクシー 高齢化、低賃金、成り手不足 苦境の公共交通

2023年03月11日

社会・経済 

タクシーが待機する奄美空港前=8日、奄美市笠利町

奄美大島でタクシーの台数が減り続けている。2022年度末現在(見込み)101台は前年度比49台減。島内を走るタクシーのおよそ3分の1が姿を消す見通しとなっている。運転手の高齢化や低賃金による成り手不足が深刻な状況下、主要タクシー会社が閉業する事態も。地域の公共交通を担い、新型コロナの影響沈静化で観光利用の需要増も期待される中、タクシー業界は先が見通せない苦境に立たされている。(西谷卓巳)

 

■一定の需要、対応できず

 

「どなたか行けませんか」。奄美市内のタクシー会社事務所に配車依頼の電話があり、職員が無線で全車に問い合わせた。応答はなく、職員は依頼を断りおわびした。所長は「市街地内のお年寄りを中心に需要はあるが、車が足りない。増車しようにも運転手がいない」と肩を落とした。

 

20年以降、コロナ禍で飲食店の時短営業や休業、閉業が相次いだ同市名瀬の繁華街・屋仁川通りでは、飲酒後に使われるタクシーの乗客が激減。深夜に走る車両が少なく、客側からは「(タクシーが)全然つかまらない。電話してもだいぶ待たされる」との声が聞かれる。

 

「一定の需要はある」。同市笠利町の奄美空港前で待機していたタクシーの運転手は力を込めた。来島者は大半がレンタカーや路線バスで移動するが、近場の観光地や飲食店、バスの路線外に行く人はタクシーを使う。「高い運賃は期待しにくいが、走らない日はない」と現状を語った。

 

■閉業、休業、低止まり…

 

九州運輸局鹿児島運輸支局などによると、奄美群島のタクシー保有台数は06年度の418台から年々減車し、08年度に400台、18年度に300台を割り込んだ。22年度は、閉業する主要会社の保有全台数を他社に移行などせず減車した場合、200台を下回る見込みだ。

 

22年度末の見込み台数192台を島別に見ると、奄美大島7業者101台、喜界島1業者6台、徳之島6業者52台、沖永良部島4業者22台、与論島2業者11台。奄美大島はここ数年で閉業が複数あり、17年度197台から5年で半減する予想だ。

 

徳之島は1業者の休業に伴い前年度比11台減。ほか3島は長く低止まりの状態が続く。ただ奄美自動車連合会の担当者は「運転手不足で運休中の車両もある。実質的にはもっと少ない」と指摘する。

 

「運転手は60~70代が大半」と、タクシー各社の職員や運転手は口をそろえる。成り手は多くが他社やバス会社の元運転手。「年金をもらいながら、生活費の足しになれば(十分)」「子持ち家庭を支える稼ぎは難しい。若い世代には向かないと思う」と高収入を期待しない声が多い。

 

■努力限界「行政支援を」

 

タクシー業界再興への道のりは険しい。運転手確保・育成の障壁として、タクシーの運転に必要な2種免許が島内で取得できない問題がある。助成制度を使い、採用後に島外の教習所で取得させる社もあるが、「精神的なハードルも高い。島内で取れる環境が欲しい」(関係者)。

 

さらにコロナ禍や原油高騰などで利益を出しにくい状況下、運転手の賃金上昇につながる運賃改定の動きもない。初乗り運賃上限は県本土の現行640円に対し、群島内は520円。30年ほど前に改定して以来、消費増税分を除いて引き上げをしていない。

 

高齢化が進む地域の公共交通を担うタクシーは、クルーズ船入港時などにも活躍が期待されているが、各社とも余裕がない状況だ。ある業界関係者は「企業努力は限界。明らかに行政による支援が必要な状況だ」と窮状を訴えている。