畜産の現場は今(上) 子牛8年ぶり50万円割れ コスト増、価格減の二重苦

2023年09月17日

社会・経済 

30万円~40万円台の子牛競りが続き、平均価格が前回比で約4万5千円下落した奄美大島市場=7日、奄美市笠利町

大島地区内の奄美5市場で開かれる子牛競り市で平均価格の下落が止まらない。JA県経済連肉用牛事業部肉用牛課奄美市駐在がまとめた7月の競り速報によると、奄美5市場の平均価格は49万6984円。2014年9月以来8年10カ月ぶりに50万円台を割り込み、9月競りでは全5市場で50万円台を下回った。背景には低調な枝肉相場や、資材費の上昇などで経営が悪化した肥育農家による子牛の導入価格削減の動きがあったとみられる。奄美大島の市場や牛舎を訪ね、飼育コスト上昇とのダブルパンチに見舞われる業界の現状を追った。

 

◆過去には70万円超も

 

同駐在がまとめた、2010年以降に奄美群島で開かれた競り速報によると、同年は宮崎県で発生したウイルス性感染症「口蹄(こうてい)疫」の影響もあって県内で一時競りが延期され、大島地区の平均価格は30万円を下回る「冬の時代」に。その後価格は徐々に上がり、13年には5年ぶりに40万円台に回復した。

 

14年以降も平均価格は上昇を続け、16年に70万円台へ突入。17年1月には78万6528円と「過去にない高値」(同駐在)に達した。その後価格は70万円台で高止まりしていたが、20年に世界的に発生した新型コロナウイルスによるインバウンド(訪日外国人)の減少などで、近年は50万円台で推移していた。

 

◆価格低迷にため息

 

今月7日に奄美市笠利町で行われた奄美大島市場の子牛競り市。雌、去勢計196頭が入場した同日は、競り開始直後こそ80万円を超える高値が付いたが、その後は30~40万円台を中心に競りが続いた。平均価格は前回7月を約4万5千円下回る約45万8千円にとどまり、競りの結果にため息を漏らす生産者の姿も散見された。

 

競りを見守っていた繁殖農家の70代男性=奄美市住用町=は「平均価格が30万円、40万円の時代は昔もあったが、必要経費は安かった。私は年金をもらっているのでトントンでもなんとかなるが、若い人は大変だろう」と話す。

 

◆肥育業界も苦しい事情

 

競りに参加した肥育業者からは、子牛の商品性は以前と変わらないと前置きした上で「需要低迷で枝肉価格は上がらない中、餌だけでなく、資材費全体が上がっている」と苦しい業界事情を打ち明け、「コストを抑えないと経営が立ちゆかなくなる。現状、削れるのは子牛の導入費用くらいしかない」と理解を求める。

 

同日、3頭を出荷した同市笠利町の繁殖農家、田中平太さん(41)は「餌代など諸経費を引くと、手元に残るお金はないに等しい。厳しい数字だ」と平均価格の下落に肩を落とし、「今はとにかくコストを減らしながらいい牛を育て、価格が上がるのを待つしかない」と前を向いた。

 

大島地区の競り価格が50万円台を割り込んだ要因について同駐在は「資材費高騰などによる肥育農家の経営圧迫だけでなく、国内の牛肉消費の落ち込みや全国的な増頭で牛肉が供給過多となり、枝肉価格が低迷している。今後も厳しい子牛の平均価格が予想される」としている。