群島リポート 働き手確保、懸念の声も 人口減に時間外労働規制で 大型製糖工場

2024年04月08日

社会・経済 

24年度から鹿児島・沖縄の砂糖製造業で時間外労働の上限規制がスタート。奄美群島各地の製糖工場でも製糖期の対応が求められる(資料写真)

鹿児島、沖縄両県の製糖工場で、5年間猶予されていた「働き方改革関連法」に基づく時間外労働の上限規制が4月1日から適用された。奄美の大型製糖工場では、猶予期間中に操業期間の見直しや労務管理の徹底が進んだ一方、残業代の減少や人口減少などを背景に、季節工(アルバイト)の確保が難しくなった。時間外労働の上限規制が本格的に適用される2024~25年期に向けて、安定操業のために十分な労働力が確保できるか、懸念する声も聞かれる。

 

19年4月施行の働き方改革関連法では、時間外労働は原則月45時間、年360時間の上限が規定された。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも年720時間が上限。さらに時間外労働と休日労働の合計は単月100時間未満、2~6カ月では平均80時間以内という規制も設けられた。

 

トラック・バスなどの運送業と建設業、医師、鹿児島・沖縄の砂糖製造業の4分野は、業務特性などから、5年間の猶予期間が設けられていたが、今年4月から適用となった。

大型製糖工場は収穫・搬入されたサトウキビを、24時間操業で加工する。奄美群島主要5島の大型製糖工場は富国製糖(奄美大島)、生和糖業(喜界島)、南西糖業(徳之島)、南栄糖業(沖永良部島)、与論島製糖。製糖期は多くが12月~翌年3月。各工場の勤務体系は富国と与論島が2交代制、生和、南西、南栄が3交代制。2交代制の工場では長時間の時間外労働が発生していた。

 

奄美市笠利町の富国製糖奄美事業所では18年以前、製糖期の時間外労働が月130時間を超えることもあった。時間外労働上限の適用開始に備え3交代制への移行も検討したが、必要となる季節工の増員が困難視されたことから断念。19年からは原料キビの収穫や輸送を担う関係者の理解を得て、1969年以来50年ぶりとなる年内操業に踏み切った。操業期間を約1カ月間延ばし、時間外労働が上限規制内に収まるよう休日を増やすためだった。

 

機械トラブルで特定の社員が修理に従事しないよう、従業員教育にも注力。勤怠管理を徹底することで労働者の出勤調整を行うなどの取り組みも進めた。

 

富国製糖は23~24年期、季節工1人欠員のまま製糖期を3月末に終えた。中山正芳所長(66)は残業時間の減少や製糖期の長期化などによって人材確保が難しくなりつつあるとの現状を示し、「省力化や効率化への設備投資は、会社への負担が大きく難しい。今後は作業工程ごとの人員配置を見直すなどして、省人化を図る必要も出てくるのでは」と見通す。

 

群島最大のキビ生産量を誇る徳之島。徳和瀬、伊仙の2工場体制の南西糖業は時間外労働の上限規制適用を見据え、農林水産省の助成事業を活用して両工場に自動制御の機器を導入し、必要な人員を減らした。

 

同社は今期、季節工90人を雇用して操業した。同社徳之島事業本部の浜口正仁総務部長(59)は「人口減少や高齢化などで、季節工は年々集まりにくくなっている。労働力確保が課題」と話す。

 

奄美群島内は、どこも働き手不足。徳之島、沖永良部島ではバレイショ収穫など繁忙期の重複という悩みもある。島の製糖事業者が直面する課題の解決策は、容易には見いだせそうにない。    (且慎也)