島々の地域づくり事業協組① 移住促進、働き手確保へ 制度4年で発足5組合に

2024年06月30日

特集

えらぶ島づくり事業協同組合の設立総会に出席した組合員ら=2021年3月21日、和泊町(提供写真)

人口の減少が続く奄美群島。その一方、新しい暮らしを求めて移り住んでくる人は多い。そこに至る経緯はそれぞれだが、4年前に創設された国の制度を活用した移住例が広がっている。受け皿となっているのは各地の「特定地域づくり事業協同組合」(特地事業協組)。今月26日に、奄美群島内5組合目が宇検村で発足した。先行する特地事業協組を訪ね、島で働く移住者、それを受け入れる事業者、そして事務局長らを取材した。各組合の現状と、関わる人々の思いを紹介する。 (佐藤正哉)

 

鹿児島県内の特定地域づくり事業協同組合(知事認定済み分)

えらぶ島づくり事業協組は2021年3月に設立され、同年5月25日付で事業協組として知事認定を受けた。特地事業協組としては鹿児島県第1号で、全国13例目。複数自治体を事業地区としたのは全国初だった。

 

結成のキーパーソンは横浜市出身で、17~19年度の和泊町地域おこし協力隊、金城真幸さん(55)。町内の農家で働く外国人技能実習生の実情を調べる中で、島の働き手不足の深刻さと実習生を抱える事業者の悩みを知った。そして、その解決に向け始動。あの手この手と模索していたところに特地事業組合制度が誕生した。

 

協力隊は20年3月、3年間の任期満了で退任。協力隊OBという立場で、両町に特地事業組合制度の意義を語り、島の事業者に声を掛けた。9月には鹿児島県中小企業団体中央会(以下中央会)から担当者を招き、第1回事業者説明会を開催。年末にかけてさらに2回説明会を開いた。

 

参加した島の事業者らからさまざまな声が寄せられた。「組合に入れば、人をきちんと派遣してくれるのか」「派遣される人材は大丈夫か」

 

組合事業を展開する上での懸念事項もあった。「人を呼び込めるか」「住む家は確保できるか」「組合員事業者に支払ってもらう利用手数料や派遣職員に支払う給料水準はどうするか」

 

事業者には丁寧に説明を、中央会とは調整を繰り返した。有志による空き家改修や民間の遊休施設の活用などに着手し、住居の確保を進めた。

 

そして組合員8事業者(農業4、食品製造、医療法人、介護・福祉施設、小売り業各1)で組合設立。知事認定を受けて、事業が始まった。

 

採用第1号は21年9月3日の3人。派遣先は花卉(かき)とバレイショの農家。初年度の採用者はIターン7人、Uターン1人の計8人になった。誕生間もない組合が移住者であり働き手でもある8人を島に呼び込んだのだ。

県1号、先進モデルに えらぶ島づくり特地事業協組

ソリダコ栽培園で外国人技能実習生らと草取りに精出す澤秀和さん(右)。今年2月から組合を通じて派遣され、この農園で働いている=6月7日、和泊町大城

えらぶ島づくり事業協組は事業4年目を迎えた。後に続く奄美群島の特地事業協組はもちろん、全国の先進モデルとなっている。採用した派遣職員は今年5月末現在で、延べ28人になった。

 

事務局長の金城真幸さん(55)は、制度についてこう話す。

 

「いい制度だと思うが、それをどう活用していくかが鍵。移住者に、どう快適な住居環境を提供していくかというのは変わらぬ課題。それができずに移住を断念するケースがしばしば発生している」

 

制度の改善要望事項の一つに、事務局運営費の公的補助(上限600万円)の拡充を求める。「現状では職員1・5人ほどの経費にしかならない。組合の仕事は多岐にわたり複雑。派遣職員5~6人のシフトや給料の調整事務しかできないのではないか。この規模では地域内でのインパクトも小さい」

 

えらぶ事業協組の役割について、金城さんは次のような項目を挙げた。▽移住希望者と人手不足で悩む事業者との架け橋となる島の人事部▽働きやすい環境を整え人材が定着する組織づくりを支援するコンサルタント▽派遣職員の経験や知識、能力を生かして新たな価値を提供し、事業者の経営を下支えする組織。全国各地の組合との連携も構想している。

 

特地事業の目的に重なる独自事業の可能性も探り続ける。職員の待遇改善にもつなげたい考えで、22年10月から厚労相許可事業の「有料職業紹介」を始めた。さらに町の移住・定住促進事業の一部受託や、農業従事者の全国的な産地間連携にも取り組みたい考えだ。

 えらぶ事業協組の各年度末の職員数(事務局含む)と組合員事業者数は▽2021年度 8人、9事業者▽22年度 10人、10事業者▽23年度 14人、11事業者。そして24年度は職員15人、事業者11。組合員として近く、初めて運輸関係の事業者が加入する見通しだ。

 

和泊町の伊集院農園は設立時からの組合員事業所。1年を通してバレイショ、花卉(かき)類などを生産・出荷してる。

 

そこに組合を通じて派遣された澤秀和さん(45)は奈良県生まれで、前職は大阪府の公務員。大阪の友人が先に沖永良部へ移住。昨年2度遊びに来て、気に入った。もともと「いつかは南の島で暮らしたい」と思っていたという澤さん。移住サービスサイト「SMOUT(スマウト)」を見ていたところ、金城さんにスカウトされ、組合制度を紹介され移住を決意した。 今年1月から知名町の移住定住促進住宅で、母(80)とふたり暮らし。2月から農園で、実習生ら11人の外国人と仕事をしている。「同僚の多くは外国人だが、みな気さくで毎日楽しい。ゆくゆくは決まった仕事に就くと思うが、まずは組合を通じていろんな仕事を体験したい。農業は一つの候補」と話した。

 

伊集院農園は島でも指折りの大規模農家。管理する畑は25㌶に及ぶ。代表の伊集院猛さん(57)によると、離農者が増加傾向で、「『借りてくれ』と言って集まってくる。畑が増えるのはいいが、どう生かすか。それも難しくなっている」という。

 

こうも話した。「人の確保は年々厳しくなっている。畑の間の移動もあり、外国人だけでは現場は回らない。島に農業をしに来てくれる外国人はここ数年で国籍が変わり、年齢層が高くなる傾向にある。若い人は来日しても首都圏の小売り関係や工場などに行くようだ。いろんな国同士の奪い合いも激しくなるだろう。そういった意味でも組合にはがんばってほしい」