奄美群島国立公園誕生から5年(上) 環境省・山根篤大企画官に聞く
2022年03月07日
世界自然遺産
奄美群島国立公園の誕生から7日で5年の節目を迎えた。国立公園の保護制度を足掛かりに、奄美大島と徳之島は昨年7月、念願の世界自然遺産登録を果たした。環境省奄美群島国立公園管理事務所の山根篤大国立公園保護管理企画官に、運営上の取り組みや課題、活用策を聞いた。
─国立公園指定の効果は。
「一番大きいのは、希少な固有種の生息、生育する森林を国立公園のエリアに入れて、法的に保護したこと。奄美の貴重な自然をしっかり守る根拠ができて、世界自然遺産登録につながった」
「もう一つは、地域の自然環境や文化の魅力の再発見。島はそれぞれ自然の成り立ちも、そこで暮らしてきた人々がつくり上げた文化も違う。そこに着目して、エコツーリズムという形で魅力を守りながら利用していくというような、地域の将来像の議論につなげることができた」
─環境保全や観光利用の具体策を盛り込んだ国立公園管理運営計画づくりが進む。
「奄美大島と徳之島は先行して2019年度に策定した。喜界島、沖永良部島、与論島も各島で検討会を開いて作成を進めている。奄美に赴任して1年足らずの間に、いろんな地域を回って、五つの島で全く違う魅力を実感している」
「計画は地域ごとの理想像。どういう風に国立公園を使っていきたいのか。例えばサンゴの石垣を大切にして保存しましょうとか、物をつくるときには野生の生き物に気を付けないといけないとか。保護でも利用でも、ルールを形にしてみんなの共通認識にする。地域の人々や専門家と議論を続けて、計画をアップデートしていきたい」
─世界自然遺産に注目が集まり、国立公園としての取り組みは見えにくい面もある。課題は。
「世界遺産の課題と表裏一体の部分もある。保護地域を設定しても、希少種の密猟、盗掘が起きている。国立公園の制度を活用して保護を強化し、しっかり守っていかないといけない」
「オーバーツーリズム(過剰利用)はコロナ下で問題化していないが、感染が落ち着けば今後出てくると推測される。奄美らしさや各島の魅力を維持しながら、向上させるような利用につなげる必要がある」
─奄美群島国立公園の目指す将来像は。
「奄美は昔ながらのゆっくりとした時間の流れや、アマミノクロウサギやルリカケスなどの珍しい生き物を身近に見られることが魅力。そういう良さを損なわず、質の高い体験を提供できるような、持続可能な利用の在り方と一体となった国立公園」
「環境文化は地域の伝統行事や、自然と一体となった景観を守っていく取り組み。人と自然の関わりを国立公園の魅力として取り上げるのは新しい考え方だ。各島で環境文化を題材にしたエコツーリズムも始まっている。そこから人口減少など地域課題の解決につながれば、国立公園として先進的な取り組みになるだろう」
(聞き手・山崎みどり)
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奄美群島国立公園 2017年3月7日、国内34番目の国立公園に指定された。面積は陸域・海域の約7万5000㌶。保護管理方針に、優れた自然を守る「生態系管理型」と、人と自然の関わりが育んだ文化を継承する「環境文化型」の従来にない2本柱を掲げた。