「伝統の本質見詰めて」 人間国宝森口邦彦氏が講演 奄美市
2024年06月17日
芸能・文化
染織家で重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けている森口邦彦氏(83)の講演会「未来を描く力」(銀座もとじ主催)が16日、奄美市名瀬のアマホームPLAZAであった。奄美大島各地から300人超が来場。グラフィック・デザインの思考で伝統的な友禅の新たな世界を切り開いた森口氏が自身の経験を語り、来場者へ「時代の変革の中でも変わらない伝統の根本や本質を求め、再建しながら次世代へつないで」と呼び掛けた。
森口氏は1941年、京都市生まれ。京都市立美大(現・京都市立芸大)の日本画学科を卒業後、パリの国立高等装飾美術学校で建築や最先端のグラフィック・デザインに触れた。帰国後は同じく友禅作家であり人間国宝だった父・森口華弘氏(1909-2008)の下で伝統的な友禅の技術を学んだ。
森口氏の作品は、華弘氏が考案した防染技法「蒔糊(まきのり)」を用い、特殊な視覚的効果をもたらす幾何学模様を配した作風が特徴。百貨店やジュエリーブランドとのコラボなど国内外で精力的に活動し、作品は東京やパリ、ロンドンなどの美術館にも所蔵されている。
森口氏は講演で、フランスでの学生生活や影響を受けた画家らとの交流、友禅の道を志した当時の思いなどを回顧。大島紬について「圧倒的な存在感を放つ大自然と小さな個人との関係性の中で生み出された美」と評し、「伝統とは根本的に変わらない人間の生き方の中にある精神や品位のこと。自分のルーツを求め、伝統とモダンの両側に立つことで新しい世界にいける」と語った。
講演会は龍郷町出身で東京都に着物専門店を構える泉二弘明会長(74)が企画。会場には森口氏の作品が2点展示され、来場した本場奄美大島紬の生産関係者や島内の着物愛好家、美術に関心の高い地元の高校生らが熱心に見入っていた。
奄美高校美術部に所属する林凜香さん(3年)は「長年作り続けながらも新しい柄を生み出すのがすごい。同じ画面の中で少しずつ色や形が移り変わっていくのが面白い」。祖母が機織りをしているという同部の川島芽育さん(3年)は「大島紬とは違う友禅の工程が興味深かった」と話していた。