巨木大作に情熱注ぐ 奄美市名瀬の画家・久保井さん

2021年04月19日

芸能・文化

奄美の巨木を描いた大作「鼓動」の一部=14日、奄美市名瀬

奄美の巨木を描いた大作「鼓動」の一部=14日、奄美市名瀬

  赤い大地に脈打つような無数の気根│。奄美市名瀬の画家・久保井博彦さん(73)が奄美の巨木を題材にした油彩の大作に挑戦している。「鼓動」をテーマに、F130号(194×162センチ)のキャンバス16枚を組み合わせた作品は幅約15・5メートル、高さ約3・2メートル。4年がかりで制作に打ち込み、今年夏にも完成を見込む。久保井さんは「奄美の自然の生命力のすごさを描きたい」と情熱を傾ける。

 

 久保井さんは武蔵野美術大学油絵実技専修科研究課程修了。家業の大島紬製造業の傍ら奄美の自然や人物をモチーフに描き続け、県内外の公募展や展示会で精力的に作品を発表している。2008年と10年にパリで個展を開催。日本美術家連盟、写実画壇会員。名瀬美術協会長。

 

 巨木との出合いは学生だった1970年代。帰郷した奄美大島の海岸で、石垣に絡みつくように根を下ろすガジュマルに感銘を受けた。以来、デイゴやアコウ、オキナワウラジロガシなど、奄美各地の巨木を描いている。

 

 本作は16年2月に奄美市住用町の山奥で出合ったハマイヌビワの巨木が題材。奄美の妖怪ケンムンがすむといわれ、大地に下ろした無数の根の幅は10メートル以上。朱色で表現した奄美の大地に、褐色の根や幹が広がり、力強く地面に食い込む様子を重厚に描いた。

 

 17年夏に制作を始め、奄美市名瀬入船町のビル1階にあるアトリエで毎日キャンバスに向かう。「迫力や臨場感を出すために、木と同じような大きさにしてみたい」(久保井さん)と挑戦した作品はこれまでで最大。全16枚のうち、現在は最後の1枚に取り組む。

 

 08年に心筋梗塞を患った。心臓から体内を巡る血液の流れを強く意識するようになり、巨木を描くテーマは「鼓動」になった。「大地に根を張って、水を吸って循環している。人間の体も同じ。生命には何でも鼓動がある」と久保井さん。「奄美の自然の生命力を感じて、人も元気が出ればいい」と笑顔を浮かべた。

 

久保井博彦さん

久保井博彦さん