喜界町長・町議選を振り返る 「候補者の意思知りたい」 無投票に住民の反応複雑
2024年09月26日
政治・行政

町長選、町議選立候補予定者が町政への思いを語る貴重な場となった「喜界島の今と未来を語るつどい」=22日、喜界町
任期満了に伴い24日告示された喜界町の町長選挙と町議会議員選挙。町長選は無所属現職の隈崎悦男氏(70)のみが出馬し、町議選の立候補者も定数と同じ12人にとどまった。現町制初のダブル無投票。住民からは、町長選には「無風」を感じていたものの、町議選の無投票に「残念だ」「競争がないと、各候補者の意思が伝わらない」「島の未来が不安」との声が聞かれた。
■町長選
隈崎氏は2020年、前町長の川島健勇氏の後継候補として町政の継承を掲げ立候補。20年ぶりとなった新人同士の一騎打ちを制した。1期4年の間にサンゴ留学制度の確立、ジオパーク推進、妊産婦や子育て世代への補助拡充など人口減少に歯止めをかけるべく、町の未来に向けてさまざまな「種」をまいた。
町議会3月定例会で2期目への出馬を表明。1期目の公約に掲げた子育て支援や、子牛価格の低迷が続く畜産業界への支援などが必要だとして「引き続き町政を担わせていただきたい」と続投の意向を示した。
町職員経験を生かした安定的な町政運営もあり、隈崎氏の表明以降、町長選を巡る動きは見られず、無風が続いた。「争いにならないほうがいい。2期目をしっかり見届けたい」(70代男性、農業)との声もあった。無投票での当確を受け、隈崎氏は「(1期目の)4年間でまいた種を、2期目には花が咲くような形でさらに政策を進め、町を発展させたい」と意欲を語った。
■町議選
一方で町議選を巡っては一時、立候補者が議員定数の12に満たない「定員割れ」となるのでは、との懸念さえ生じた。
議員経験者の1人は「無投票となった背景には町民の選挙への意識の変化と地域性がある」と見る。「集落内では『今回はあなたが(選挙に)出なさいね、次は僕が出るからね』というような暗黙の了解が、土地の慣習としてある。集落から新たな立候補者が出れば、現職は続けたくとも退かねばならないという事情もみえる」と語った。
町議選無投票を受けては「当然、議員定数削減への議論は避けられない。しかし人数を確保しなければ多様な意見が出ず、安易に定数を減らせば元に戻すことは容易ではない。慎重な議論が必要だ」と述べた。
一方で町民からは「12人は多すぎる。議員は集落の代表ではなく町民の代表。視野を広げ町全体の問題を見て、未来を考えてほしい」(70代女性、農業)との声も聞かれた。
■無投票でのスタート
全国町村議会議長会の有識者検討会は、議員のなり手不足の原因に「地区・集落による候補者擁立制度や、議員になり地域に貢献しようと志した人でも二の足を踏む旧来的な議会環境と議員像」などを指摘。「度重なる無投票が、地方自治の弱体化を招く」とも警告している。
今回の町議選当選者12人のうち、新人は5人で、2期目となるのは4人。町議会での一般質問も、新人を中心に21年以降は着実に増えており「さらに議論が活発になれば」と期待する声がある。今回の選挙に当たり、新人の1人は現職と集落が重なったことに対し「そういったことは全く気にしなかった」と話した。
論戦も投票もなく、無風で終えたダブル選挙。島の土壌にまかれた種は、4年後どう芽吹くのか。議員の刷新で新しい風が吹き、開花をもたらすのか。島南部に暮らす40代女性は「当選はゴールではなくスタート。無投票で町長、議員となったからこそ(町民)みんなが厳しい目で見ていると思い、いい意味で期待を裏切ってほしい」と話した。
(佐藤頌子)