課題は輸送力拡充 奄美住民の島外避難 国民保護で県がシミュレーション
2025年01月31日
政治・行政

県が示した奄美群島住民の避難方針案を基に、関係機関が課題などを話し合った国民保護図上訓練=28日、鹿児島市の県庁
鹿児島県は28日の国民保護共同実動・図上訓練で、有事が予想された場合に奄美群島の住民約10万2千人を県本土へ避難させるのにかかる日数が、14日程度になるとの見込みを明らかにした。群島住民の島外避難について、島ごとに具体化された計画案が示されるのは初めて。県独自の想定に基づく試算で、今後は課題の輸送力拡充などによる避難日数の短縮に向けた検討が進められる。万が一の事態が発生した場合、迅速な避難につなげるには住民の協力も重要になる。シミュレーションの一つとして頭に入れておきたい。
■国民保護計画とは
国民保護計画は武力攻撃などを受けた場合に、国や県、市町村、関係機関が住民の生命・身体・財産を守るための施策をまとめたもの。県は2006年3月に作成した。計画で想定するのは、弾道ミサイル攻撃などの「武力攻撃事態」と大規模テロなどの「緊急対処事態」。県は国民保護法制の概要や啓発パンフレットなどをホームページに掲載して周知を図っている。
■避難は要配慮者優先
奄美群島の避難方針案によると、島内避難は各市町村の避難実施要領に基づき行い、島外避難のための交通手段は定期航路の航空機とフェリーを想定している。島外避難の優先順位は①=入院・施設入所者など②=高校生以下と65歳以上の高齢者ら③=①と②を除く全住民④=自治体職員―の順。①は船舶便での避難が基本だが、困難な場合は航空便で移送する。避難者は県本土に到着後、居住する市町村ごとに避難受け入れ自治体に移る。
■県想定の避難タイムライン
空路での避難は民間航空会社の計21機で計画し、輸送力は群島全体で約7万人を想定。海路では民間船舶会社のフェリー6隻が約3万人を避難させる。二次離島の加計呂麻、与路、請の3島住民は「フェリーかけろま」と「フェリーせとなみ」で奄美大島に移動した後、島外避難に移る。群島全体の船舶での避難に関しては、南部からの避難を優先する。このため、奄美大島から船舶で住民が避難するのは避難開始から8日目以降となる。県の試算は、航空便と船舶便の増便を見込んで輸送力を想定し、各島の避難完了日数を単純計算した。最も早い与論島で5日、最後の奄美大島で14日かかるとした。
■浮かぶ課題
国民保護を巡り奄美では、島内での自治体連携や悪天候時の対応、要配慮者の事前把握、食料の確保、観光客ら住民以外の避難といった検討すべき課題がある。
政府は緊急時の国民保護や大規模災害の発生に備え、奄美の空港・港湾3カ所を含む県内8カ所を平時から使用できる「特定利用空港・港湾」に指定。台湾有事を念頭に、沖縄県の先島諸島から九州・山口の8県に住民ら最大12万人を避難させる計画の策定も進める。南西諸島が要避難地域に指定された場合、それらと奄美群島住民の避難の兼ね合いはどうか。体制整備が進むにつれ、有事対応の難しさも浮き彫りになっている。
国民保護の実効性を高めるには、行政主導で課題を一つ一つクリアしていくだけでなく、官民の連携強化も必要不可欠だ。
(鹿児島総局・向慎吾)