クロウサギとの共生模索 徳之島町、タンカン食害急増

2020年07月18日

地域

①	タンカンの葉をかじるクロウサギ(徳之島町提供)

① タンカンの葉をかじるクロウサギ(徳之島町提供)

 国の特別天然記念物アマミノクロウサギによるタンカン樹木の食害が、徳之島町の母間、花徳地区で急増している。町が被害を初確認した2017年度の被害面積は38アールだったが、19年度は約16倍の630アールに拡大。イノシシなどの害獣と異なりクロウサギは駆除や捕獲もできないため、生産農家や自治体は共生の道を模索している。

 

 町は自動撮影カメラを設置した17年度に、1戸の園地で食害を確認。18年度は4戸で被害面積41アール、被害額は前年度比23万4千円増の34万4千円だった。

 

 これを受け、町は19年度、クロウサギ食害の被害低減を目的に、ふるさと納税のガバメントクラウドファンディング(GCF)で全国から寄付を募った。集まった約208万円を活用し18年度に被害を受けた農家4戸の園地や樹木の周囲に保護柵を設置したが、被害は7戸に拡大。被害額も211万円に増加した。

 

 自動撮影カメラのモニタリング調査から、町はクロウサギの食害被害は1、2月に発生し、他の期間は園地の草を食べていることを確認。担当者は「野生化した猫(ノネコ)対策が奏功して、クロウサギの生息数が増加したと実感している。その結果として生息域が広がり、山を下りて食べているのだろう」と分析する。

 

 町は食害抑制策として電気柵の設置も検討した。19年度に母間地区で試験的に導入した電気柵をモニタリングしたところ、柵に触れたクロウサギが樹木に近づかなくなるなど一定の効果が確認された。だが町側は「柵に触れたクロウサギが飛び上がり、体にもダメージが残る懸念がある。クロウサギが木をかじる期間は限定的で、電気柵を使うと園地の草も食べられなくなる」とし、農家の理解を得て保護柵の設置を推奨している。

 

 7年前からタンカンを栽培している同町母間の松下清志郎さん(57)の園地では、今年2月ごろに食害が見つかった。この2年間で定植した幼木を中心に表皮が食い荒らされ、枯死した樹木もあった。

独自の保護柵を設置してタンカンの幼木を保護する松下さん=15日、同町母間

独自の保護柵を設置してタンカンの幼木を保護する松下さん=15日、同町母間

 

 今年度の被害防止に向け、松下さんは町と連携して幼木の周りに市販の塩化ビニールパイプと動物除けシートを改良した独自の保護柵を設置した。「クロウサギが園地で草を食べるのは問題ないが、年月かけて育てた幼木をかじられて枯れるのは悲しい。今回の対策で、樹木被害の抑制につながれば」と話した。

 

 町は今年度、保護柵の設置で労働的負担が増す農家の支援策にも取り組む。具体的には、タンカンの高付加価値化による農家所得向上を目指してクロウサギとの共生、共存を表現したタンカン発送用段ボールを製作する。一般の人が保護柵を設置したり、タンカン狩りを楽しんだりするエコツアーの仕組みづくりなども計画している。