ネット上に「おおきなWA村」 瀬戸内町2世の吉見さん

2021年01月04日

地域

苗定植後のパイン畑でオンライン村への参加を呼び掛ける吉見さん=12月13日、東村

苗定植後のパイン畑でオンライン村への参加を呼び掛ける吉見さん=12月13日、東村

  沖縄・やんばる地域の果樹農家、吉見真一さん(37)。瀬戸内町2世。CG(コンピューターグラフィックス)デザイナーから農家に転身し、都市と農村をつなぐ仮想の村をネット上で立ち上げた。自ら初代村長に就任し、「ネットのつながりを通して、実生活を豊かにしよう」とオンライン村への参加を呼び掛けている。

 

「おおきなWA村」で集まった植え付けボランティア=11月21日、東村(提供写真)

「おおきなWA村」で集まった植え付けボランティア=11月21日、東村(提供写真)

 「おおきなWA村」は、吉見さんが運営する月額会員制のオンラインサロン。村民登録すると、動画配信や双方向コミュニケーションなどにより、自宅にいながら農作業や田舎暮らしを体験できるという。

 

 会費の額によってサービスが異なる。例えば年間1万5千円を支払うと、無農薬マンゴーなどのトロピカルフルーツが届いたり、その栽培技術を学べたりする。欲しい農作物の契約栽培や、村民専用SNSの利用など、さまざまな特典がある。

 

 吉見さんの畑は名護市と東村に合計40㌃ほど。農地の確保が難しいと言われる沖縄で、縁あって借りられた貴重な土地だ。

 

 農家になる前は東京でCGデザイナーをしていた。東日本大震災を機に別の生き方を模索し、祖父が長年暮らした沖縄に移住。沖縄産業開発青年隊に入隊し、重機オペレーターの資格などを取得した。その後、沖縄県立農業大学校で熱帯果樹を専攻。農業を一から学んだ。

 

 農大在学中に両親の故郷、瀬戸内町に滞在し、パッションフルーツ農家や町の営農センターで実習した。奄美の大自然に触れ、田舎暮らしの素晴らしさや過酷さを実感した。

 

 卒業後は今帰仁村の農業生産法人に就職。栽培技術を徹底的に仕込まれ、マンゴー園の園長を3年間務めた。後継者にと誘われたが、思い切って独立を決意。ライブ動画とEコマース(電子商取引)が融合したライブコマースなど、新たなネット販売の手法に次々チャレンジし、顧客を増やしてきた。

 

 もともと農家を志していたわけではなかった。出身は大阪府高槻市。何不自由なく育ったが、少年時代はどこか息苦しさを感じていた。訳もなくふさぎ込むことが多い中、好きな絵を描くことが救いだった。大学には進学せずCGの専門学校に通った。デザイナーとして就職したが、多彩な社会経験を積みたいと数年で退職。震災で転機を迎えるまで、派遣で職を転々とした。

 

 沖縄で農業を始めてからは、以前のようにふさぎ込むことがなくなった。周りの人はとても温かく、驚くほど親切だ。畑の植え付けや収穫時には、ネットで知り合った人たちがボランティアで駆け付けてくれる。今後はこうした風景や作業をオンライン村で公開し、交流の場としていく予定だ。

 

 「これから求められるのは『田舎力』です」と語る吉見さん。「おおきなWA村」を支えるのは、やんばるや奄美のような自然豊かな実在の農村だ。オンライン村を通して都会と田舎のコミュニケーションを促進し、これからの時代を生き抜く「田舎力」を培おうと考えている。

 https://www.ookinawamura.com「おおきなWA村」ホームページ

(佐久本薫・本紙沖縄通信員)