与論愛を表現 音楽ダンス劇団、「野生の島人」始動

2020年01月03日

地域

音楽ダンス劇団「野生の島人」の初公演=2019年10月11日、与論町砂美地来館

音楽ダンス劇団「野生の島人」の初公演=2019年10月11日、与論町砂美地来館

 昨年5月、鹿児島県与論島民による与論島音楽ダンス劇団「野生の島人」が旗揚げした。10月には奄美大島青年会議所やNPO法人ヨロンSC、同町教委など各団体の協力のもと町砂美地来館で念願の初公演を開催。島の自然、歴史文化を題材にした物語と、出演者たちの独特な身体表現や芝居は観客に衝撃と感動を与えた。「先人たちの自由で豊かな感性を学び、失われた野生の感覚を呼び起こす」が劇団のテーマ。「与論人による与論島オリジナルの音楽ダンス劇」という新たな舞台芸術に挑む劇団を取材した。

 

 ■旗揚げ

 

 発起人は同町で飲食店を営む沖隆寿さん(36)。劇団の代表も務める。2009年から東京中野で居酒屋を経営する傍ら、演劇や音楽活動にも取り組んでいた。そこで出会ったのが世界各国で上演される創作舞台などを手掛ける舞台演出家の小池博史さんだったという。

 

 沖さんが与論島へUターンして半年後の18年、小池さんのマネジャーから「離島での芸術活動の普及を目的とした、文化庁の戦略的芸術文化創造推進事業を与論島で実施したい」と連絡があり、協力を買って出た。

 

 当初は島民がプロの演じる劇を鑑賞したり、ワークショップを実施したりして、舞台芸術の魅力に触れるという内容だったが、「それだけではもったいない。島民自らが舞台に立てば、より面白そう」。

 

 そう思い付いた沖さんは早速、島内で団員を募集。ほどなくして劇団「野生の島人」が誕生した。

 

 ■個性的な面々

 

 現在、団員は20代から60代まで島内の男女11人。飲食業、観光ガイド、ダイビングインストラクター、ミュージシャン、柔道整復師、神主など職業も多彩で、個性的な面々がそろった。

 元ザ・コブラツイスターズのボーカルで、現在は地元・与論島を拠点に活動するシンガー・ソングライターの川畑アキラさんも団員の一人。川畑さんは「自分の思いを表現するのは音楽の中だけでやっていればいいと思っていたが、与論に帰ってきてから方言劇をしたり、方言の歌詞にメロディーをつけたりと、いろんな活動をする中で、表現の仕方もいろいろあると改めて感じた。自分もかたくなに音楽だけにこだわらず、与論のエンターテインメントを他の人とも一緒に盛り上げられたらいいなと思った」と入団の動機を語った。

 

 一方、「演技なんて絶対できないと思っていたが、小池さんから『頭で考えないで』と助言され、身体が勝手に動くようになった」と舞台で表現することの楽しさを話すのは団最年長の酒匂洋子さん(67)。「これまでの人生になかった体験をし、新しい自分も発見できた」とやりがいを感じている。

 

 酒匂秀樹さん(48)は「とにかく楽しいからやっている。舞台に立つ自分たちが楽しむのは、見る人にとっても大事だよね」。

 基真理子さん(66)は「舞台を通して昔ながらの与論の文化や人の価値観を、若い人につないでいきたい」。

 

 このように年齢も、立場も多様な団員らが、それぞれ違った考えや目的を持って一つの舞台に立つが、全員に共通した思いを基さんが代弁した。

 

 「島のいいところも、悪いところも全部ひっくるめて与論が好き。『与論愛』に満ちた人の集まり」だ。

 

初公演を終え、笑顔を見せる団員ら=19年10月11日、与論町砂美地来館

初公演を終え、笑顔を見せる団員ら=19年10月11日、与論町砂美地来館

 ■続く挑戦

 

 昨年10月の初公演のタイトルは「野生を編む島」。主人公の女の子が不思議な声に導かれ、今よりも「人と自然が近かった時代の与論」へとタイムスリップし、そこでさまざまな体験をする。島に伝わる農耕儀礼「シニグ祭」など島の文化や歴史を題材にした物語だった。

 

 出演者らはスローモーションのようなゆっくりとした動作による身体表現やタップダンス、三線演奏、歌、そして芝居で会場を魅了した。

 

 初公演を終えた団員らは「練習不足」「道のりは険しい」と反省の言葉を繰り返したが、「与論で暮らす自分たちだからこそできる舞台芸能がある」と次回公演に向けて前を向く。

 

 脚本を手掛ける沖さんは「頭で理解してもらうより、見る人の心に訴え掛けられる舞台を目指したい」と抱負を述べ、こうも語った。

 

 「文化や伝統、価値観など、僕たちが好きな『与論』を形成する目に見えない大事なものが、島の人口減や時代の変化の中で日に日に薄れたり、なくなっているとすれば、それはとても怖いこと。そうならないよう自分たちが今持っている、感じている『与論』を舞台に投影し、劇を見る人たちと繰り返し共有することで、次の世代にも引き継いでいけるのではないか」

 

 劇団は今年も小池さんの指導を仰ぎ、団員のレベルアップに努める。指導を離れる数年後には地元団員のみで自立し、活動を継続する考えだ。