元不登校の若者も担い手に
2019年04月17日
地域
元スクールソーシャルワーカー(SSW)の原田さおりさん(47)が経営する小売店「楽笑(らくしょう)」が1日、奄美市名瀬の佐大熊町にオープンした。従業員の女性Aさん(15)は不登校経験者で、この春市内の中学校を卒業したばかり。店では商品の配達を通して、買い物に行けない高齢者の生活を支えている。「地域に居場所を見つけ、いつか次の誰かを導く存在に」―。そんな願いを込め、原田さんは一人の若者の奮闘を見守っている。
原田さんはさまざまな事情を抱えた子どもと家族へ支援を行うSSWとして、2014年度から5年間、奄美市内の中学校に勤務。その傍ら、休日はボランティアで近隣の児童生徒の学習支援を行ってきた。
「せっかく縁がつながっても卒業後に切れてしまう。支援が必要な人をそのままにしていていいのか」―。仕事や活動を通し、校区や学年の枠を超えた支援の必要性を感じていたという。
Aさんには学校など特定の場所や状況で声を出して話すことができなくなる「場面緘黙(かんもく)」という症状がある。学校へはほとんど通わず、市のふれあい教室(適応指導教室)を利用していた。
進路に悩んでいた頃、原田さんから「店を開くので手伝ってもらえないか」と声が掛かった。現在は母親と共に、週3回程度のペースで働いている。
商店がある場所は市営団地や民家が連なる住宅密集地。店内には日用品や文房具、生鮮食品のほか、弁当やパン、店内で作る揚げ物などの総菜が並ぶ。
12日、Aさんは原田さんに連れられて近所の高齢者宅へ配達に出掛けた。弁当を手渡した女性から「ありがとう」と感謝され、手を握られると、はにかんだような笑顔が浮かんだ。
店に出て客と話すことで、Aさんに笑顔が増えたという。母親は娘へ「今まで自分の気持ちを発することができず心配もあったが、表情が明るくなった。頑張ってほしい」とエールを送った。
Aさんは「仕事ではいろんなことを経験できる。楽しいし、やりがいもある」と意気込む。一番うれしいのは勤務後に手渡される給料。「お金をためて、自分専用のスマートフォンがほしい」と励んでいる。
店は通学路に面しており、原田さんは大きな窓から道行く住民や児童生徒へ声を掛ける。窓に備えたカウンターテーブルにはお年寄りがひと休みに訪れ、放課後になると小学生や中高生でにぎわう。店舗3階の自宅では小・中・高校生への学習支援も行っている。
原田さんは、Aさんの存在があることで不登校の子どもへの理解が広がるとともに、同じ悩みを抱える児童生徒にとっては生き方のヒントとなると考えている。今後も地域の中に若者たちが働く場所を増やしていきたいという。
「ここで自信をつけて、勉強したくなったら進学すればいい。もっと稼ぎたいと思ったら転職してもいい。次のステップに進む足掛かりにしてほしい」と原田さん。小さな商店が、人と地域を糸のように結び付け、社会へと紡ぐ新しい拠点になりそうだ。