問われるペットとの関係 多頭飼育崩壊の現場に同行 徳之島の現状

2024年05月29日

地域

犬猫愛護推進チームの政田由美子代表らが介入した多頭飼育崩壊の現場=23日、徳之島の島内

ペットが繁殖し過ぎて飼い主が管理不能に陥る「多頭飼育崩壊」。不適切な環境で飼育され、悪臭やペットの健康上の問題がある。さらに奄美大島や徳之島では犬や猫がアマミノクロウサギなどの希少野生動物を捕食、捕殺する問題も起きており、ペットの飼い方の改善は地域の課題となっている。徳之島で犬や猫の保護に取り組む犬猫愛護推進チーム「12(わんにゃん)ウェルビー」の政田由美子代表(51)と共に徳之島の多頭飼育崩壊の現場に向かった。

 

合流場所に着くと政田代表は保護テープをぐるぐると腕に巻き付けている最中だった。まるでリングに向かうボクサーのよう。「以前かまれたときは化膿して危なく指を切断しなければならないほど悪化した。危険だけど分厚い手袋だと猫は捕まえにくいから」と話す。

この日は政田代表らが保護した犬、猫の譲渡に協力している犬猫愛護団体「咲桃虎(サクモント)」=宮崎県=の山下香織理事長(43)とスタッフの計2人も来島。計5人で島内の現場に向かった。

 

今回、保護するのは猫4匹。この現場への介入は2回目で前回は犬8匹を保護したという。飼い主は一人暮らしの80代男性。以前は牛小屋だったという建物に入った途端、強烈な悪臭であっという間に涙目に。写真では伝えられないひどいありさまだった。

 

小屋の中にいた3匹は保護したが1匹は小屋から逃げ出していたため後日捕獲器で捕まえることに。「犬や猫は畑に捨てられていたのを拾ってきた」と話す男性。以前の介入で保護できなかった犬が2匹残っていたがその後に死んだという。

 

男性はキャリーバッグに入れられた猫たちに「優しい人たちだから大丈夫」「元気でな」などと話し掛けて別れを惜しむ。政田代表は「もっと早く協力してくれたら死んだ犬も助けられた。もう絶対に飼わないで」と涙ぐみながら男性を叱責し、「でもきょう猫が保護できたのは○○さん(男性)のおかげ。大切にするから安心して」と語り掛けた。

 

「きょうの飼い主のように『かわいそうだから保護してあげている』と考える人は多いが、避妊、去勢をせずに不適切な飼い方をすれば結局は不幸な犬や猫を増やすだけ。自己満足にすぎない」と切り捨てる政田代表。山下理事長は「飼い主が貧困や高齢で孤立しているケースが多い。行政や福祉と連携が必要だが実際は権限も資金もない私たちボランティアに任されている」と現状を嘆いた。

 

子牛の生産が盛んな徳之島では番犬にしたり、ネズミ除けのために牛小屋で犬や猫を飼うという島独自の事情も絡んでいる。政田代表が現場に介入したのは今回が10例目。山下理事長は「人口2万人の島にしては数が多過ぎる。悲しいがペットに対する意識が20年以上遅れていると言わざるを得ない」と首を横に振った。

 

この日は犬15匹を保護するため別の現場にも向かうという。政田代表は「当たり前だが保護してめでたしめでたしではない。この子たちが最期まで幸せに暮らせるようにすることが私たちの役目」と語り、「全ては飼う人間の問題。犬や猫は道具じゃない。飼うなら家族として迎え入れて」と強く訴えた。

 

12ウェルビーは「適正飼育」「終生飼養」の啓発活動を軸に「犬も猫も人も幸せに暮らせる島」を目指している。「こんな現状だけどいつか実現できるはず」。政田代表やスタッフは、かすかな希望を支えにきょうも徳之島の犬と猫のために奔走している。