嘉徳海岸護岸工事を考える 奄美市で海辺の国際シンポ
2019年05月27日
地域
海辺の国際シンポジウム「生き残った海辺、嘉徳の世界的な価値」は25日、奄美市名瀬の奄美文化センターであった。県が瀬戸内町嘉徳海岸で進めているコンクリート護岸工事に関して、研究者や弁護士ら4人がさまざまな視点から講演し、地元住民を交えてパネルディスカッション。「嘉徳で生態系を生かした防災・減災(Eco―DRR)が実現できれば、日本のモデルケースになる」と訴えた。会場には多国籍多世代の約100人が来場し、熱心に耳を傾けた。
護岸工事の見直しを求める奄美の森と川と海岸を守る会(ジョン・髙木代表)と日本法律家連盟「自然の権利」基金(籠橋隆明代表理事)が主催。講演は、髙木、籠橋両氏と東洋文化研究家のアレックス・カー氏、和歌山大学観光学部准教授のアダム・ドーリング氏が行った。
籠橋氏は世界自然遺産登録を目指す中で進められている同護岸工事は疑問だとし、「生態系は全てがつながっている。嘉徳の浜や川はバッファゾーン(遺産を守るのに十分な緩衝地帯)から外れているが、川も含めた保護をしなければ本当の意味での『完全性』は実現しない」と指摘した。
ドーリング氏は環境の保全性と持続可能性を考慮するエコツーリズムが世界的に増えているとし、「嘉徳ではEco―DRRができるチャンスがあり、日本の事例になれる」と強調した。
パネルディスカッションは同4氏のほか、地元から碇山勇生さん(龍郷町、プロサーファー)、薗博明さん(奄美市、自然と文化を守る奄美会議共同代表)、松本晋平さん(瀬戸内町嘉徳住民)がパネリストに加わり、来場者からの質問を受けての討論形式とした。
「嘉徳の浜が貴重だという事は分かるが、今後地元で浜を守る人をどう守っていくのか」との質問に、日本の原風景を生かした地域づくり、観光活用などに取り組むカー氏は「宿泊やサーフィン、エコツーリズムなどの受け皿ができていれば、一種の商売として守っていける。公共事業を否定しているのではない。中身を変えていけばいい」などと答えた。
地元住民としての思いを聞かれた松本さんは「嘉徳海岸の素晴らしさに引かれ、10年前に移住した。今、心の中で泣いている。どうにかして工事を止め、奄美の財産として残していけないか」と訴えた。