走れ「あらとんとん号」 買い物困窮者支援へ、住民有志が移動販売 奄美大島瀬戸内町

2024年04月12日

地域

「あらとんとん号」での買い物を楽しむ住民=鹿児島県瀬戸内町西古見

過疎化が進み、集落から商店や自動販売機が消えた鹿児島県瀬戸内町花天~西古見集落の「買い物困難者」を支えようと住民たちが奮闘している。2023年10月、久慈集落を拠点に始まった電気自動車による移動販売「あらとんとん号」。開始から5カ月がたち、総菜や生鮮食品が集落でも購入できると好評で、「なくなると困る」と掛け替えのない存在になりつつある。

 

■自販機もなく

 

運営しているのは瀬戸内町久慈集落(61世帯91人)の住民ら有志で作る一般社団法人「チーム西方」(昌谷栄四郎代表理事)。

 

きっかけは2018年から同町で始まった福山市立大学(広島県)の空き家調査。久慈より西側の西古見(21世帯24人)、管鈍(18世帯23人)、花天(4世帯8人)の3集落には食料品を扱う商店も自動販売機1台も無いことが分かった。

 

この地域の活性化を目指し、「チーム西方」が23年5月に発足。国の交付金を活用して廃校になっている旧久慈小中学校跡を農泊施設へ改修するほか、同校跡を拠点に移動販売車を走らせ、買い物に困っている人たちを支えようと同年10月、移動販売を開始した。

 

「あらとんとん」とは、久慈の方言で「クラゲ」の意味。「簡単で覚えやすい」として決定した。移動を知らせるBGMは郷土の歌手南条かつみさんの「奄美月夜~ほこらしゃ」。軽快な手拍子とチヂン(太鼓)のリズムに「元気が出る」と好評だ。

 

■週3古仁屋で仕入れ

 

仕入れから販売まで担当するのはチーム西方副代表の昌谷正明さん(58)。介護施設での勤務と兼業で行っている。巡回前日と当日早朝、古仁屋で仕入れを済ませ、毎回200品目以上を載せて火、木、土曜日の正午前後に西古見~古志間で販売車を走らせている。

 

4月2日、西古見で一輪車を押して現れた松元佐代子さん(80)は「買い物はバスで1時間かけて古仁屋まで行かないといけないからとても助かる。私のために来てくれたみたい」と笑顔で語る。

花天では近畿大学水産研究所奄美実験場が大事なお得意先だ。ペットボトル飲料を購入した森大志さん(43)は「自販機がないからすごく助かっている」と話す。

 

集落から離れて点在する住民の注文にも柔軟に対応。花天で一人暮らしの叶節子さん(94)へは自宅入口近くに車をとめて販売。叶さんは「やはり買い物ができるのはうれしい」とそうめんを手にして会計を済ませた。

 

■「支え合い」商売

 

介護施設とも提携している。地域の高齢者を支える小規模多機能型居宅介護支援事業所「ルリカケス」は、施設で提供する料理の食材の調達を「あらとんとん号」に依頼し購入している。

 

同施設はこれまで古仁屋から出勤する職員に食材の調達を頼んできたが、それを「あらとんとん号」が担ってくれる。管理者の静島良樹さんは「職員の負担が減り大変助かる」と話す。

 

価格は古仁屋で買うより割高にはなる。しかし静島さんは「来てくれないと困る住民は多い。われわれも地域の方々にお世話になって設立した。地元の『あらとんとん号』を応援したい」と支え合う。

 

課題は仕入れた食品が売れ残る食品ロスや価格設定だという。昌谷正明さんは「仕入れに工夫も必要になるかもしれない。できる限りで地域のために頑張りたい」と話している。

 

(柿美奈)