防災面でも大きな役割 葛藤抱え活動する人も 民生・児童委員(下)

2023年05月28日

地域

防災訓練で避難所へ避難する名瀬小湊の住民ら=23年1月22日、奄美市名瀬

大地震や津波、台風、豪雨など自然災害への減災・防災対策も、少子高齢化が進む地域の重要課題となっている。日ごろから高齢者や障がい者らの見守り活動を行う民生委員は地域の福祉だけでなく、防災面でも大きな役割を担う。防災は住民の命に関わるテーマ。多くの民生委員が強い責任感のもと、地域の防災力強化に向けた取り組みにも積極的に関わる半面、いざ災害が発生した際、「自分は民生委員として適切に行動できるだろうか」。そんな葛藤を抱える人も少なくない。

 

■小湊町内会

 

2023年1月22日午前、奄美市名瀬小湊の東郷はるみさん(73)は地区の避難所に指定されている奄美看護福祉専門学校の建物へと急いだ。

 

奄美市で大津波を想定し、3年半ぶりに実施された防災訓練。警報発表から10分ほど経過、参加者の大半はすでに到着していた。

 

避難所の入口で点呼を取っていた係の人に「はるみ姉、遅かったね」と声を掛けられた東郷さんは一息つき、「他の家を回っていたから」と返した。

 

活動歴10年以上のベテラン民生委員。近所の高齢者宅など7軒を回り「一緒に避難しませんか」と呼び掛けた。うち訓練に参加してくれたのは2人。耳が遠くて、防災無線での放送や玄関口での東郷さんの呼び掛けが聞こえなかった高齢者がいたことも後で知った。

 

自主的に高齢者宅を回ったのは民生委員としての責任感もあったが、22年1月、奄美群島に発令された津波警報の際、自力で避難できず「自分は取り残された」と感じた高齢者がいたのを知ったからでもある。

 

■災害時の指針

 

22年の津波警報では、多くの島民が高台へ避難した。一方、自力では避難できずに自宅待機を余儀なくされた高齢者や障がい者もいたとし、介護福祉事業関係者などから自治体へ対策を求める声が上がった。

 

警報発令時に「取り残された」と感じた人がいた一方、民生委員にも罪悪感を抱いた人たちがいた。奄美市民生児童委員協議会連合会の事務局や役員のもとには「民生委員らしいことを何もできなかった」「私には民生委員の資格がないかも」。そんな声が寄せられたという。

 

11年3月の東日本大震災では、多くの民生委員が避難の呼び掛けなど要支援者の避難誘導に当たった。その過程で岩手、宮城、福島の3県で計56人の委員が津波の犠牲となった。

 

震災の教訓を踏まえ、全国民生児童委員連合会は「民生委員も地域住民の一人であり、自らの安全が最優先」と活動指針を示す。その上で「災害時の要援護者の支援は民生委員だけが担うのではなく、平時から地域ぐるみによる取り組みが必要」と主張している。

 

■スーパーマン

 

5月1日現在、小湊地区の人口は388人。この10年間で約100人減少した一方、世帯数はあまり変わらず、高齢の独居世帯が年々増加傾向にある。

 

津波警報発令時の教訓を踏まえ、小湊町内会では22年度に「地区自主防災計画」の策定に取り組んだ。災害時に住民がどの場所へ、どのように避難するかなど事前に計画を決め、地域での被害を最小限に抑えるための取り組み。

 

また自力避難が難しい要支援者を、近隣住民らで手助けし、円滑な避難につなげるための「個別避難計画」の策定も進める。4月末現在、地区内の要支援者58人のうち7~8割は計画を策定済みという。

 

策定作業の中心を担うのは、東郷さんと共に小湊で民生委員を務める栄嘉弘さん(69)。町内会役員の成り手が減る中、栄さんは町内会長も兼務する。

 

「地域のことを何でもやって、まるでスーパーマンですね」。感心する記者に栄さんは言った。

 

「違うよ。スーパーマンなら災害が起きても一人でみんなを助けられる。私たちは一人じゃ何もできないから、これ(個別避難計画)をつくってるんだ」と。

 

人口減・少子高齢化の時代にこそ求められる人と人とのつながり。民生委員ら一部の人だけに頼らず、地域全体で考えるテーマだろう。