嘉徳海岸護岸整備(上) 「人命、財産守るため必要」 推進住民

2022年02月27日

地域

護岸工事が計画されている嘉徳海岸=15日、瀬戸内町嘉徳

県の「侵食対策事業」による瀬戸内町嘉徳海岸の護岸整備に向けた工事用道路が今月22日、本格的に着工した。県が護岸整備計画を示してから約6年。早期の対策を待ち望んでいた護岸推進派の住民は安どする一方、生態系への影響などを懸念し工事の見直しを求める自然保護団体は道路の本格着工後も話し合いの場を求め、県へ抗議の声を上げ続けている。同町嘉徳集落を訪れ、護岸工事計画をめぐる推進派と見直し派の今を追った。(且慎也)

 

嘉徳海岸は2014年の台風18、19号で砂丘が浸食されたとして、同集落と瀬戸内町は同年中に2度、県へ対策を要望した。県は16年度、延長530㍍の護岸整備を計画したが、生態系や環境保全などを理由に反対の声が上がり、17年度に専門家や地元住民ら7人で構成する検討委員会を設置。3度目の会合が開催された18年1月、規模を180㍍に縮小した護岸整備が決まった。

 

19年3月に始まった最初の工事は、工事予定地の近くでウミガメの上陸・産卵が確認されたため、県は同年6月から中断。その後周辺調査などを行い、21年8月の入札を経て同年9月から、現在の工期がスタートしている。

 

県によると、護岸は集落の墓地から海側へ約20㍍地点の砂丘に、高さ6㍍のコンクリートブロックを埋め込む形で設置する。護岸の前後には防風林としてアダンを植樹し、コンクリート部分に砂をかぶせて地上から見えなくするなど景観面に配慮した工法という。

 

護岸建設地に向かうため、嘉徳川と金久川が流れる集落入り口近くから工事用道路を建設する。リュウキュウアユの遡上(そじょう)を妨げないよう金久川に箱型コンクリートを敷設して川を渡り、砂浜に敷いた鉄板の上を工事車両が通行する計画だ。

 

護岸工事の見直しを求める自然保護団体らは「14年の台風による浸食被害以降、海岸の砂の量は回復している」などとして事業の必要性を疑問視。事業実施のための公金支出差し止めを求め県を提訴しており、現在も係争中となっている。

 

県大島支庁瀬戸内事務所建設課の用皆弘太課長は「本来あった砂丘の回復までに至っておらず、今後の台風による被害の懸念は否定できない。事業は専門家を交えて検討委員会で護岸を造らない可能性も含めた上で協議した結果であり、護岸は人命や財産を守るのに必要」と説明する。

 

同集落の海岸部は世界自然遺産地域の緩衝地帯に組み込まれ、自然保護団体は事業の一時休止を求めている。用皆課長は「世界自然遺産登録など工事を取り巻く状況に変化がある場合は、専門家に事業の是非について判断を仰いでいる。嘉徳一帯は奄美群島国立公園の普通地域に区分され、工事は法的に問題ない。生態系に配慮しながら工事を進めていく」と理解を求めた。

 

以前から対策を求めてきた住民は本格的な着工を歓迎している。昨年9月、当時の住民8割に相当する住民16人の署名を添え、県へ護岸の早期完成を要望した嘉徳集落の徳田博也区長(71)は「浸食後は台風が接近するたびに、夜も眠れないほど心配だった。工事が始まりほっとしている」と述べた。

 

工事現場周辺には集落外から多くの自然保護関係者が集まり、抗議活動を続けている。徳田区長は「護岸は集落住民の命と財産を守るものであり集落の問題。集落外の人はそっとしておいてほしい」と要望した。