奄美豪雨から10年② 結いの精神、次世代へ 防災対策(ソフト面)

2020年10月18日

地域

避難訓練なども行われた奄美地区自主防災会の結成式=6月28日、奄美市名瀬(同会提供)

避難訓練なども行われた奄美地区自主防災会の結成式=6月28日、奄美市名瀬(同会提供)

 2010年に未曽有の豪雨を経験した奄美市は、ソフト面の防災対策にも力を入れてきた。

 地域防災力の要となる自主防災組織の立ち上げはその一つ。豪雨発生当時(10年10月)と現在の組織率を地区別に比較すると、▽名瀬が24%から88%▽住用が41%から100%▽笠利が99%から100%。この10年間で住用と笠利は全集落をカバーし、名瀬は3倍以上に向上した。

 今年6月、奄美小学校校区8町からなる奄美地区に自主防災会が誕生した。

 自主防災組織は通常、町や自治会、集落単位で結成されているが、複数の町をまたがる広域組織は珍しいという。名瀬市街地は自治会が未組織の地域もあることから意識啓発の意味合いも大きく、市は「将来的には個別の防災組織結成のための橋渡し役になれば」と期待を寄せる。

 拠点は名瀬安勝町の新川ふれあい館。会長には、元消防署員で平田中央自治会長を務める當弘道さん(72)が就いた。

 當会長は「地区内は文教施設や医療、福祉施設が多く、一般住民以外も避難する可能性がある。いざというときに安全な場所があるという安心感の醸成につながる」と力を込める。避難訓練や応急救護など年4回の防災訓練を計画している半面、課題は毛布など備蓄品の確保。今後、行政に要望するなどして充実を図りたい考えだ。

 市は今年度、ハザードマップの更新事業に着手している。冊子のほかウェブ上で公開予定。12年作成の現マップは洪水・土砂災害編と津波編のPDFデータだが、新マップは基準の見直しに応じて追加修正できる仕様。利用者側にとっては、自分の住む地域周辺の地図を拡大・印刷することで「マイハザードマップ」が作成できるという。

 災害協定では民間企業や各種団体、自治体間の連携・支援態勢構築も進んだ。豪雨発生1年後の11年10月には名瀬、奄美両漁業協同組合と緊急輸送協定を締結。土砂災害で孤立集落が多発したことを踏まえ、小型漁船による人命救助や物資の海上輸送が要請できるようになった。

 豪雨時に24時間体制で情報発信したNPO法人ディ!とは、災害放送協定を結ぶ。非常時に防災行政無線をFMラジオへ割り込ませることが可能。風雨で屋外スピーカーが聴こえづらいときは、ラジオからリアルタイムで防災情報を得られるという。

 今年6月現在の協定件数は38件。緊急時の避難場所や福祉避難所、災害復旧、支援物資の供給、情報提供など多岐にわたっている。

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 市総務課危機管理室の奥伸太郎室長は、防災力強化には公的な対策(公助)とともに地域のソフトパワーである「自助」「共助」の連携が欠かせないと語る。

 災害対策はハードでゼロリスクにするという考えが主流だったが、想定外の災害が続く中で、ダメージコントロールをして最小限に抑えるという認識に変わりつつある│とし、「住民は自ら災害情報を収集して『気付くこと』、情報を基に『考えること』、避難など『行動すること』の3点が重要」と強調する。

 その上で、先人から伝わる結いの精神を共助のキーワードに挙げた。「防災力は地域力。その後の東日本大震災や九州北部豪雨でも住民の助け合いが見直されたように、奄美の高い地域力が全国で認知されるきっかけになった。この結いの精神を守り、次の時代に継承していけたら」