畜産の現場は今(下) 生産費上昇、経営負担に 飼料自給率向上などで対策

2023年09月18日

社会・経済 

経費節減のため、母牛へ自給飼料を与える野村さん=8日、奄美市笠利町

ウクライナ情勢や円安、中国の需要増大などを背景に、配合飼料の価格は近年急騰している。配合飼料供給安定機構の『飼料月報』によると、今年6月の1トン当たり配合飼料価格(全畜種の加重平均価格)は9万9166円。2012~2020年ごろまでは6万円台で推移していたが、直近3年間で約1・5倍に上昇した。

 

畜産経営の主な経費は飼料代のほか、母牛導入や牛舎建設などの減価償却、労働費など。農林水産省によると、21年の肉用牛1頭当たりにかかる生産費(全国平均)のうち、飼料代や光熱費など物財費と労働費を合計した費用は前年比約4万円増の64万6722円で、10年前から約11万7千円上昇した。飼料代は費用全体の42・1%を占め、10年前の35・1%から7ポイント増加している。

 

飼料価格の高騰が畜産農家へ及ぼす影響の懸念から、県大島支庁農政普及課は粗飼料の自給率向上を目指してマニュアルを作成。奄美の基幹作物であるサトウキビの収穫残さ「ハカマ」を活用した粗飼料づくりなど、3項目の取り組みを奨励している。JA県経済連肉用牛事業部肉用牛課奄美市駐在はこのほか、農家の経費節減対策として、年一産の徹底に向けた母牛管理や牛舎など設備のメンテナンスなどを挙げている。

 

 

◆価格低迷への支援策

 

子牛価格が低落した場合のセーフティーネットとして、「肉用子牛生産者補給金制度」がある。黒毛和種の場合、四半期ごとの平均売買価格が保証基準価格(55万6千円)を下回ると生産者に補給金が交付される仕組みだ。23年度に大島地区で開かれた3回の競り(5月、7月、9月)の平均価格はいずれも保証基準に届いていないが、補給金の発動条件は全国の平均価格を参考とするため、補給金は交付されていない。

 

補給金制度に加え農水省は1月から、「和牛生産者臨時経営支援事業」を措置した。ブロック別の平均価格が発動基準(60万円)を下回った場合、平均価格と発動基準の差額の75%を支援する制度で、九州・沖縄ブロックは4~6月分で1頭当たり1万5千円の支援金が発動した。8月下旬には事業内容が見直され、生産者補給金が発動した場合の追加支援策も盛り込まれている。

 

◆若手畜産農家の思い

 

奄美市笠利町で子牛の繁殖に取り組む野村貴徳さん(24)は伯父の勧めもあり、日置市の県立農業大学校を卒業後の2019年に就農。現在は伯父が増築した牛舎で5頭の母牛を飼養している。

 

畜産を志した高校生時代は、大島地区の畜産業界は子牛平均価格が最高値を更新した最盛期。就農後、ほどなくして世界的に広がった新型コロナウイルスの影響で価格は大きく落ち込んだ。「いい時代の話を見聞きしてただけに、当時と比べるとギャップはある。経費を抑えようにも、これ以上何を削ればいいのか…」と、厳しい胸の内を吐露する。

 

業界の先行きに不安を抱えつつも、来年度には新しい牛舎建設に着手する。将来目標に掲げる「母牛30頭飼養」に向け、年次的に増頭する計画だ。「畜産は一生続ける決意で始めた。子牛の成長が目に見えて実感できる仕事が楽しい。今はつらい時期だが、価格が上がると信じて頑張りたい」と前を見据えた。

(且慎也)