未明の避難、見えた課題 津波警報発令 トイレ、交通渋滞、防寒対策…

2022年01月18日

地域

避難した車両が長い列を作った大熊展望台近くの県道=16日午前0時45分ごろ、奄美市名瀬

南太平洋のトンガ諸島付近で発生した大規模な火山噴火に伴う潮位変動で、16日未明に奄美群島などに発令された津波警報。避難中にけがをした人がいたものの、津波による被害は17日現在確認されていない。一方、未明の突然の警報に各地で混乱も生じた。交通渋滞、避難場所でのトイレ、防寒対策…。避難した住民や自治体の防災担当者の話から、さまざまな課題が浮かび上がってきた。

 

■適切な避難所確保

 

避難住民の意見で多かったのはトイレ確保の問題。津波の避難所として適した建物がない場合など、地域によっては海岸から離れた林道や農道、高台にある広場を一時的な避難場所に指定している。

 

ただ津波は1回の襲来で終わらず第2波、3波と続く場合もある。今回は16日午前0時15分に津波警報が発令され、注意報に切り替わったのは約7時間後で、注意報も全て解除されたのは14時間後。避難先にトイレがなく、警報発令中に帰宅したという人も多かった。

 

大和村津名久の池田幸一さん(86)は近くの山道へ車で避難。明け方に集落の知人らに電話すると「毛布がなくて寒い」「トイレに行きたい」などの理由で帰宅していたという。

 

池田さんは「車の燃料が少なくてエンジンを切ると寒かった。今のままでは安心して避難できない。各集落の状況に合わせ、トイレもある津波避難用の建物を高台に整備してほしい」と訴えた。

 

また徳之島高校に避難した徳之島町亀津の50代女性は「訓練の通りに学校に来たが、いざ来てみると明かりも少なく、ほとんどの建物は鍵が掛かり使えるトイレも限られている」と指摘。官民で避難体制を見直す必要性を語った。

 

奄美市の担当者は「2年ごとの防災会議で避難所の見直しなどを行っているが、今回見えた課題もしっかり反映させないといけない」。徳之島町の担当者は「海岸に近い避難所もあり、津波を考慮した避難場所の検討が必要。また台風シーズンと違い、冬場だと毛布の数が足りない。避難用の備品なども見直したい」と口にした。

 

■避難時の渋滞対策は

 

奄美群島では車で避難する人が多く、高台に続く各地の道路は渋滞した。

奄美市の60代女性は「川沿いの道路なども混雑した。津波で川の水が逆流して氾濫したらと考えると怖かった」と話した。

 

喜界町で16日に町内で避難に使われた車は、町の把握分だけでも約460台。同町の担当者は「避難ルートの見直しや住民への周知に加え、交通整理の人員配置なども今後は検討材料の一つ」と語った。

 

■難しい判断

 

津波警報が発令された16日未明、多くの住民はすでに就寝中。複数の自治体の担当者は「すぐに避難指示を出してよいか、ためらいも感じた」と明かした。一方で「人命が最優先。避難指示が出たらすぐに避難を」と口をそろえる。

 

喜界町の70代男性は「寒い夜中に、高齢者らを起こして、足元が暗い道を避難させるのも危険ではないか。今回のようなケースは判断が難しい」と語る。実際に奄美大島では避難中の負傷事例もあった。

 

防災講話などで自主防災組織設立を後押しする県地域防災アドバイザーの中山芳一さん(79)=奄美市名瀬=は「災害時は行政の情報にならって行動するのが原則」と強調。その上で「同じ津波警報の地域でも住む場所、天候など外の状況、(家族など)周囲の環境など個人個人で状況は異なる。それらを総合的に考慮し、結局は自分の責任で判断し、身を守るために最善と思う行動をする以外にない」と話した。