乱獲「氷山の一角」 希少種違法捕獲

2019年04月09日

希少な動植物が生息・生育する一方、その盗掘・捕獲防止対策の強化が求められる奄美大島の森

希少な動植物が生息・生育する一方、その盗掘・捕獲防止対策の強化が求められる奄美大島の森

 「島の宝を持ち出すなんて許せない」「氷山の一角にすぎない」。奄美大島の希少動物を違法に捕獲したとして東京のペットショップ店員とフリーーライターの2人が逮捕された事件は、世界自然遺産登録を目指す奄美の住民に大きな波紋を広げている。奄美にしか生息しない貴重な動植物をどう守るか、島民の意識が問われている。

 

 容疑者2人は2018年7月16日、定期船で奄美大島を経由し宝島に渡り、トカラハブ9匹とムラサキオカヤドカリ5匹を捕獲。同日奄美大島に戻り、翌17日にかけて宇検村の村道などでアマミイシカワガエル2匹、オットンガエル2匹、アマミハナサキガエル10匹を捕獲した。

 

 翌18日、奄美市笠利町の奄美空港で、捕獲したヘビやカエルをキャリーバッグに入れ手荷物として機内に持ち込もうとしたところ、エックス線検査で引っかった。さらに2人が航空貨物で送ろうとしたため「動物を送ろうとしている人がいる」と担当者が貨物係に一報。2人がバッグを置いて東京へ帰ってしまったため、貨物担当者が警察へ通報した。

 

 自然写真家の常田守氏(65)は「世界遺産登録へ向けた機運が高まる中、係員の監視の意識も高まっていたから防げたのでは」と評価。植物写真家の山下弘氏(67)は「港などでも植物防疫事務所がチェック態勢を強化しているのもいい傾向だ」と話す。

 

 一方で、両氏は今回の摘発を「氷山の一角」と指摘。徳之島と違い、奄美大島は登山口も下山ルートも複数あることから、現行犯を逮捕することが難しく、乱獲を防ぐことが困難だという。これまでにもアマミイシカワガエルやランなど希少な植物が島から持ち出され、インターネットで販売されたこともあった。奄美大島5市町村でパトロールをしている山下氏は今月に入っても自生ランが盗掘された跡を目撃した。

 

 常田氏は「今回の事案は地元の案内なしで捕獲できたのか。地元の人は捕獲が違法になる希少種の知識をしっかり持ち、安易に生息場所を教えることのないよう注意することも大切」と話す。特に夏場は希少種の昆虫を狙った乱獲者が増えるという。

 

 世界自然遺産登録を目指す奄美大島は固有の希少動植物の宝庫。行政は自然保護団体の協力も得て保護に当たっているが、盗掘の監視や防止活動には関係機関団体だけでは限界がある。今後ツアー客が増えた場合、どう盗掘や捕獲を防ぐのか。

 山下氏は「徳之島ではNPO団体が空港や港でパトロールをして監視している。奄美にも必要だ」とし、「奄美大島はまだまだぬるい。監視カメラの設置や厳しい罰則が必要だ」と指摘。常田氏は「子どもへの教育が一番大事。46億年の地球の歴史の中で、固有の希少種が現代も奄美に生息している奇跡をもっと認識することが重要だ」と話している。