別冊太陽 田中一村を特集

2019年06月03日

芸能・文化

見て読ませる別冊太陽「田中一村 〝南の琳派〟への軌跡」(大矢鞆音監修)

見て読ませる別冊太陽「田中一村 〝南の琳派〟への軌跡」(大矢鞆音監修)

 毎号一つのテーマを深く掘り下げて紹介する「別冊太陽」(平凡社)が田中一村を取り上げている。一村研究の第一人者大矢鞆音氏の監修。専門家、研究者、作家、現役の画家など20人が作品や人柄をつづり、従来のイメージを塗り替える「多様な一村像」を提示。スケッチを含む約130点の作品、一村の撮った写真なども収載。専門家は「近代日本を代表する深みのある画家」と述べる。

 

 執筆者は大矢氏のほか、岡田美術館の小林忠館長、東洋美術史家で東大の戸田禎佑名誉教授、ノンフィクション作家の梯久美子さん、一村に関する多くの出版物を手掛けた編集者の福井篤子さんら。大矢氏と一村のおいで著作権管理者の新山宏氏の対談、奄美の一村を写真に収めた田辺周一氏も写真と文章を寄せている。奄美からは写真家の濱田康作氏が写真と併せて執筆しているほか、元奄美和光園職員の松原千里氏も同園時代の一村について書いている。

 

 初期の刊行物で一村は「売り絵は描かない」とされたが、栃木県立美術館の山本和弘氏は一村の書簡などから「貧困にあえぎ、生活を犠牲にして芸術に身を捧げた世間知らずの芸術神話の申し子ではない。愛好家の注文に要望以上の質で応えるプロフェッショナルであった」と述べる。

 

松原氏は和光園の入所者に「似顔絵を描いて」と次々に頼まれ、快く引き受けていたこと、入所者と一緒にトランプや花札をしていたことなど弱者に温かいまなざしを注ぐ一村の実像を紹介している。

 

 「多様な一村像」と美術史における一村の位置付けは昨年出版された大矢氏の著書「評伝 田中一村」で提示されているが、今回も同氏の幅広い人選により、説得力を持つものとなった。小林館長は「一村はもっと評価されて良い、近代日本を代表する深みのある画家だ」と記す。

 

 168㌻、2500円+税。問い合わせは電話03(3230)6585平凡社。