「私は小百合、盗らないで」 笠利町佐仁、物語看板で訴え
2022年04月18日
地域
奄美市笠利町の佐仁集落から屋仁集落にかけて、テッポウユリの群生が見頃を迎えている。海沿いの県道602号沿いに、約1キロにわたって続く純白の花。地元住民が毎年楽しみにしている春の風物詩だが、同時に頭を悩ませているのが花の大量持ち去り。開花時期が終わるころにはほとんど残っておらず、集落の人々は胸を痛めている。
「今年も春がきた」
16日午前、佐仁で暮らす男性(74)はうれしそうな顔でユリを眺めた。「チョウや昆虫も来る大切な場所。花を眺めながら散歩してきたよ」
この季節に咲き乱れるテッポウユリの群生は、住民の癒やし。佐仁2区の南豊志区長(62)は「名瀬に行くにも赤木名に行くにも必ず通る道だからね。みんなが楽しみにしている」と話す。
奄美群島国立公園管理事務所によると、テッポウユリは種の保存法や県、市町村の保護条例にある花ではない。また佐仁周辺は、すべての動植物の捕獲・採取が禁止されている「国立公園特別保護地区」にも該当しない。佐仁の男性(74)も春になると少し採ってはお墓にお供えしてきた。「今年も春が来たよと先祖に伝えに。もちろん余分には採らないよ」
問題なのは車で乗り付け、根元から折って大量に持ち去っていくケース。南区長は毎年「盗るな」と看板を立てるが、持ち去りは後を断たない。「折られた跡を見るたびに心も折れた」という。今年こそはと知恵を絞った。
「私は野に咲く一輪の小さなユリ/名を『小百合』と言う」
一人称の「小百合」が、通行人に呼び掛ける「物語」を看板にしたためた。
冬、佐仁海岸から吹きすさぶ厳しい北風に耐える小百合。
「茎が折れないか心配/仲間たちと声を掛け合う/ひたすら耐える」
けなげな姿を、春になるまでじっと見守り続ける区長ならではの視点を織り交ぜた。
春になり、花を咲かせた小百合は呼び掛ける。
「みんなに観てほしい/それが私の生きがい/お願い私を盗らないで…/撮るなら写真かビデオにして…」
「盗る」と「撮る」の語呂合わせのユーモアも織り交ぜた。
最後は感謝の言葉で締めくくった。
「理解してくれて『ありがとう』」
花言葉は「純潔」。観賞する人のマナーを試すかのように、きょうも潮風に揺れる小百合。設置から1カ月。今のところ目立った被害は確認されていないという。