奄美の丸木舟100年ぶり里帰り 宇和島市から
2019年12月14日
地域
愛媛県宇和島市に奄美大島から流れ着いたとみられる丸木舟がおよそ100年ぶりに里帰りした。貨物船で再び海を渡って奄美入りした舟が13日、奄美市住用町の原野農芸博物館(原野耕三館長)に運び込まれた。来年4月に同博物館本館展示室で公開する。学芸員の福原凡香さんは「舟が使われていた奄美の歴史と、戦災を乗り越えて舟を守った宇和島の人々の思いも伝えたい」と話した。
丸木舟は長さ5・1メートル、幅約60センチ、高さ45センチ。材質はタブの木とみられ、一本の木をくりぬいて製作されている。船首と船尾の内側に、舟を係留するための縄を通す削り残しの穴があるのが特徴。
同博物館などによると、舟は宇和島市西沖の日振島で見つかり、同島出身の社会教育家・森岡天涯氏(1879~1934)が市内の伊達図書館に寄贈した。25(大正14)年の地元紙に丸木舟と同図書館に関する記述があることから、このころに流れ着いたとみられる。
図書館は戦時中に空襲で焼失したが、舟は市内の神社に移されていて無事だった。舟のことは長い間忘れられていたが、2007年に同市の画家宮川淳一郎さん(78)が神社から自宅に引き取った。
舟がどこから来たのかは分かっていなかった。宮川さんの依頼で専門家による調査が行われ、08年までに奄美大島で日常的に使われていた「スブネ」と分かった。船首が細い奄美の板付け舟や沖縄のサバニとは異なり、船首と船尾が「割竹型」といわれる平面になっており、舟の前後の区別が不明確であることが特徴。
高齢になった宮川さんが舟を引き取ってくれる施設を探していたところ、専門家の紹介で原野農芸博物館への譲渡が決まった。12年間大切に保管しながら、舟をモチーフに絵を描き続けた宮川さん。「里帰りが一番いいと思ったのでひと安心した。奄美が安住の場所になり、舟も喜んでいるのでは」と話した。
スブネは奄美大島で戦後まで使われており、島内には5隻が現存している。里帰りした舟は県立大島高校(奄美市名瀬)にあるスブネと並び最古級だという。
奄美大島から約600キロ離れた宇和島市に流れ着いた経緯など、分からないことは多い。同博物館は地元研究者とも連携して丸木舟の調査を進めるとしている。