情報共有の効率化学ぶ 大島病院救急センター
2022年01月26日
地域
県立大島病院救命救急センター(奄美市名瀬)主催の災害医療講演会が24日、オンラインで開かれ、広島大学医系科学研究科の久保達彦教授が災害時の医療情報共有について語った。奄美群島の関係者約140人が視聴。災害医療チームが被災者の健康状態や避難状況などを迅速、正確に共有するために練り上げられた日本独自の標準診療日報様式「J―SPEED」(ジェー・スピード)に理解を深め、むらのない情報把握の重要性を確認した。
ビデオ会議システムと動画投稿サイトを使い、群島内の医療や福祉、行政関係者らが参加した。
久保教授は、集団的な健康維持を目的とする公衆衛生学が専門。特に労働者が対象の災害産業保健を研究しており、国内外の被災地で医療救護支援も経験した。講演では自身が主導したJ―SPEED開発の経緯や活用状況などを伝えた。
2011年の東日本大震災で得た教訓として、久保教授は「被災地域で生活する人々の健康状態を正確に把握、共有するのが難しい。災害医療チームは個々の様式で診療日報を作る上、日々入れ替わるため集計しづらく、中長期的な傾向もつかみにくい」と指摘した。
J│SPEEDはこうした状況も踏まえ、フィリピン保健省などが運用していた標準様式「SPEED」を基に開発。既存の標準カルテ「災害診療記録」と併せて使うことで、傷病種別患者数や地理的分布の迅速な把握と、それに伴う医療資源配置の適正化などが期待できる。
16年の熊本地震で初めて本格運用。期待された効果に加え、感染症や精神不安の早期把握にもつながった。こうした日本の取り組みから発展した災害医療プログラムは17年、世界保健機構(WHO)が国際標準として承認した。
久保教授は「J―SPEED運用を広めるには、医療機関以外の理解も欠かせない。情報把握、共有の効率化が行政など他機関にどう役立つのかを知ってもらうことが大切。合同訓練などは有効だ」と訴えた。
講演後、大島病院救命救急センター長の髙間辰雄医師は「奄美大島など離島地域は本土に比べて医療体制が脆弱な上、災害医療チーム来島にも時間が掛かる。医療従事者以外がJ―SPEED運用に関わる想定も必要だと思う」と語った。