幅広い研究事例を紹介 島嶼域の環境テーマに講演会 東大大気海洋研

2022年12月04日

社会・経済 

自然、環境、海洋などの幅広い分野での研究事例などが発表された講演会=3日、奄美市名瀬

東京大学大気海洋研究所が進める「亜熱帯・KUROSHIO研究教育拠点の形成と展開事業」普及講演会が3日、奄美市名瀬の市民交流センターで開かれた。「セカイとつながる奄美~島嶼(とうしょ)域における環境学研究~」をテーマに同大学の研究者ら7人が講演し、自然科学や人文、社会学など幅広い分野から研究事例を紹介。亜熱帯化が進む日本の環境問題や自然との関わり方について、専門家だけではなく地域と連携して考えていこうと発信した。

 

2日のキックオフシンポジウムに続く講演会で、オンラインを含め約100人が参加した。

 

同研究所の河村知彦所長は冒頭の講演で「人間の活動による気候変動は自然変動を上回り、急激なペースで進んでいる」と警告。過去100年間で地球全体の年平均海水温が0・55度上昇し、日本近海では1・0~1・5度上昇していると説明し「海水温を変えることはできず、温度上昇の原因を解決するしかない。自然との付き合い方や温帯・亜寒帯と亜熱帯の違いについて研究を重ね、みんなと共に考えたい」と述べた。

 

海洋科学の視点からは、海水に含まれる生き物の粘液や排せつ物などのDNAから生態分布などを明らかにする「海洋DNA」の研究や、年輪のように刻まれたサンゴの骨格分析から得られる海洋環境情報の分析技術などを紹介。

 

環境に対する考え方では、都市とは異なる島の独自性が強みとして位置付けられたほか、海を島々をつなぐ海路として見ることにより奄美大島と太平洋の島々がつながっているとの考え方も示された。

 

水産資源確保については、沖縄県本部町でのカツオ漁の歴史を紹介し、地域文化の継承やアイデンティティー確立に対する提言も。瀬戸内町にある東大医科学研究所の奄美病害動物研究施設が取り組んできた感染症や風土病についての研究内容なども紹介され、参加者の関心を集めた。

 

同研究所の兵藤晋副所長は「これからも各分野の研究者と協力し、出前授業やサイエンスキャンプなど地域と連携した活動も進めていきたい」と締めくくった。