あらゆる想定必要 離島住民の島外避難 武力攻撃時に備え、訓練重要

2023年01月31日

社会・経済 

他国からの武力攻撃を想定して実施された県国民保護共同図上訓練=18日、鹿児島市の県庁

政府が防衛費の増額を打ち出し、防衛力の抜本的強化を図ろうとする中、他国からの武力攻撃を想定して離島住民を島外に避難させる国民保護共同図上訓練が18日、鹿児島市の県庁であった。武力攻撃を想定した広域避難訓練の実施は県内で初めて。屋久島町を対象地域とし、住民約1万2千人を平素の公共交通機関の輸送力で県本土に避難させるのに最低6日間かかることなどが示された。2023年度内には同町で実動訓練も予定し、県はその成果や課題を県内自治体で共有する方針。支援が必要な高齢者が多いことや地理的条件など、離島が抱える課題は共通している。屋久島町の例を参考に、奄美での避難体制の在り方を考えたい。

 

図上訓練には主催した内閣官房、県、消防庁、屋久島町をはじめ、自衛隊や民間の輸送機関など約40機関の関係者が参加した。

 

同町の避難実施要領(案)によると、人口約1万1800人の屋久島では県が確保した高速船の運航ダイヤに合わせ、公民館など一時集合場所に避難した住民らを避難確認所(体育館2カ所)を経て宮之浦港と安房港に避難させる。一時集合場所までの避難は原則徒歩。島内輸送は地元バス会社3社の計81台(乗合30台、大型26台、中型14台、小型11台)が担う。

 

100人ほどが暮らす口永良部島は本土に直接移動する手段がないため、町営船で屋久島に一度渡ってから本土に避難する。

 

離島から住民を迅速に避難させるのに重要となるのが輸送力だ。県によると、屋久島町では公共交通機関の輸送力(定期運航便)が1日約2千人(船舶約1650人、航空機約350人)。住民の避難だけでも6日はかかる。

 

図上訓練では島外避難時に対応するため高速船などを増便し、奄美航路のフェリーの協力も得た場合の輸送力を提示。平素の2・75倍に当たる1日約5500人の輸送が可能になるとしたが、それでも全住民の避難に最低2日はかかる計算だ。

 

県の国民保護計画では、離島は各島の特性に応じた避難を行うと定めている。奄美群島の場合、①与論島、沖永良部島、徳之島の避難は各島から県本土、状況により沖縄に直接避難する②加計呂麻島、請島、与路島の避難は奄美大島に一時避難した後、奄美大島の住民の避難と一体となり避難する③奄美大島の避難は県本土に直接避難。状況により島内での避難を実施しつつ、県本土へ避難する④喜界島からは県本土に直接避難。状況により奄美大島へ一時避難する―としている。

 

奄美大島の人口は約5万7千人で屋久島町の約4・8倍。本土への輸送力は違えど、屋久島町の避難実施要領を踏まえると、より細密な計画を練る必要がある。例えば空港や港へのルートが限られるため、自家用車などで住民が避難した場合、渋滞が発生することは容易に想像できる。高齢者が多い集落などでの避難はどうするか。各自治体では防災訓練により積み重ねたノウハウはあるものの、島外避難となると検討すべき課題は多い。島内5市町村の連携も欠かせない。

 

今回の図上訓練にアドバイザーとして参加した国士舘大学防災・救急救助総合研究所の中林啓修准教授は、ロシアのウクライナ侵攻を引き合いに「人類は絶対に戦争を起こさないための方法を持っていない」と指摘。その上で訓練の重要性について「図上訓練は大規模かつ過酷な状況を想定して訓練できるのがメリット。他方で、実動訓練を行わなければならない理由は現場でないと分からないことがあるからだ。いろんなところに課題が潜んでいる可能性がある。国民保護の取り組みは防災にも生かせる。細かい検討を行っていく必要がある」と強調した。