保護クロウサギに神経症状 トキソプラズマ症か 猫のふんなど感染源に 奄美大島
2022年09月14日
奄美大島の果樹園で今年5月、国の特別天然記念物アマミノクロウサギが保護され、島内の動物病院で治療を受けている。首を傾けた状態が続く神経症状があり、専門家の血液検査で、猫のふんなどから感染するトキソプラズマ症の可能性が高いことが分かった。治療に当たる伊藤圭子獣医師(45)は「症状が悪化することがあり、野生復帰は難しい」と話し、「猫は飼い主が知らない間に感染症を広げている恐れがある。できるだけ室内で飼って」と呼び掛けている。
クロウサギは大和村福元盆地の農園で5月19日午後2時ごろ、タンカンを栽培している大海昌平さん(66)が発見した。「真っ昼間に、首を左に傾けながら同じ所をぐるぐる回っていた。平衡感覚がないような状態だった」と大海さんは振り返る。環境省奄美野生生物保護センターへ運んだ後、龍郷町の奄美いんまや動物病院に移された。
保護されたのは体重2・8㌔の雄の成獣で、目立った外傷はなかった。伊藤獣医師は「目が回って自力で立てない状態。体格がよく、衰弱もしていないので、突然症状が出たのでは」と推測する。採取した血液を東京大学大学院農学生命科学研究科の三條場千寿助教(寄生虫学)へ送り、トキソプラズマの抗体検査で陽性が確認された。
トキソプラズマ症は寄生虫のトキソプラズマが引き起こす感染症。加熱が不十分な食肉や、猫のふん、汚染された土壌から人や動物に感染する。健康な人の場合はほとんど症状が出ないが、妊婦が感染すると胎児に障害が出ることがある。
伊藤獣医師は「クロウサギの死後に感染が分かったことはあるが、長く生存している個体は初めて。感染して症状が出るケースがどのくらいなのか分からず、森林内での影響は未知数」と指摘する。
奄美大島の山中では、野生化した猫(ノネコ)が希少種を襲う被害が発生しているが、「ノネコの被害はそれだけではない。ふんによる土壌汚染が原因で、野生生物が感染して知られずに死んでいることもあるかもしれない」と警鐘を鳴らした。