コロナ禍の伝統行事 「文化の灯消さない」 工夫で乗り越える住民ら
2022年11月29日
特集【コラム】
「ヨイヤー、ヨイヤー」。大和村の今里集落で8月14日、豊年祭に欠かせない「振り出し」の声が2年ぶりに響いた。体中に墨を塗った「シタン役」と呼ばれる先導者が刀を振り回して厄を払い、青壮年団員6人と児童らが奉納相撲で地域の安寧を祈った。森山智史団長(41)は「小人数だが祭事を続けられた。集落の先輩から代々受け継ぐ行事なので、自分もしっかり覚えて後輩へ伝えたい」と語った。新型コロナウイルスの影響で各地で祭りの中止・縮小が続く中、住民たちは地域の文化を絶やすまいと試行錯誤している。
(榊原希望)
今里集落にはトネヤ(祭祀所)が2カ所あり、豊年祭行事では男女がそれぞれ祈りをささげた後、男衆がシタン役を先頭に広場の土俵まで練り歩いて相撲を奉納する。シタン役による先導があるのは今里だけという。役を担うのは男性で、生涯で一度きりとされている。
例年は別の集落の住民や郷友会のメンバーも加わってにぎやかに豊年祭・敬老祝賀会を行うが、2020年からは祭りを主催する青壮年団が祭事のみ実施している。シタン役を務めた福長直大さん(30)は「大切な行事に参加でき誇らしい。伝統の担い手が減っていく中、今里の文化や魅力をたくさんの人に知ってもらえればうれしい」と話した。
湯湾釜集落では11月9日、コロナ禍で3年連続中止となっている「ムチモレ(餅もらい)踊り」の一部を青・壮年団や婦人会の有志が再現した。風呂敷などで顔を隠した着物姿の団員らが「ムチモロター」「ヨイヤ、ヨイヤ」と掛け声を響かせ、住民の無病息災や家内安全を願った。
ムチモレ踊りは300年以上前にあった大火事の後に厄払いとして始まったといわれ、旧暦10月16日の夜に行われる。本来は集落のトネヤを皮切りに男女が踊り連をつくり、消火に使われたという泥団子をかたどった餅をもらい受けながら家々を回る。
20年、21年は集落放送で踊りの歌を流すだけだったが、今年は集落の4地区で団員らが数曲踊った。壮年団の藏正さん(59)は「地域の方から喜びの声をいただき、本当に楽しみにされているんだと実感した。3年ぶりで歌がスムーズに出ないところもあり、毎年欠かさず祭りを実施することの意義についても考えることができた」と話した。
瀬戸内町の清水集落では奄美群島の重要な祭り日「アラセツ」に当たる8月31日、地域の八月踊り愛好会メンバーら約30人が「ヤーマワリ(家回り)」を行った。同集落にある古仁屋高校の寮で生活する高校生たちも参加した。
同集落では例年、その年に集落に転入した家庭や、新築・改築した家などを地域住民が訪ね、庭先で八月踊りを踊って祝う。コロナ禍で中止が続いていたが、今年は新設された公民館など3カ所で小さな踊りの輪をつくり、集落の繁栄を祈った。
愛好会で中心となって活動する朝野明美さん(70)は「ヤーマワリは集落を払い清める大事な行事。高校生たちにも卒業前に体験してもらえて本当に良かった」と話し、「来年はいつも通り盛大に行いたい」と期待を込めた。