浸水、停電、断水… 生活に多大な影響、孤立集落も 住民ら不安や嘆き

2023年06月22日

自然・気象

冠水した道で排水溝のふたを掃除する住民=21日午後0時半ごろ、宇検村

線状降水帯の発生に伴って奄美大島で20日夕方ごろから本格化した大雨により、島の中・南部では住宅の浸水や停電、断水などの被害が発生し、島民生活に影響が広がった。一部地域では道路冠水や土砂崩れのため交通網が寸断され、路線バスの運行や通勤・通学にも影響。宇検村の一部の集落は現在も孤立したままとなっている。影響は島民の暮らしにとどまらず、商業、観光業など産業面にも拡大。21日も断続的に激しい雨が続き、断水などで不便を強いられる住民からは不安の声や嘆きも聞かれた。

 

 

孤立6集落、停電180戸 浸水被害など不安な夜続く 宇検村

 

前夜から発達した雨雲がかかり続けた宇検村では、21日も昼前にかけて激しい雨が降り、各地で住宅浸水や停電、土砂崩れなどの被害が相次いだ。

 

床下浸水の被害に遭った石良集落の富山美利さん(65)は、朝から排水溝のふたに詰まる葉っぱや石などの除去作業に追われた。「普段は水が溜まるようなことはないが、滝のような雨が降り、一気に水が押し寄せた。水位がいつ上がるか気が気でない夜だった。道向かいの畑のサトウキビや3年目のタンカンの木も漬かってしまった」と肩を落とした。

 

県道79号(名瀬瀬戸内線)須古から県曽津高崎線627号屋鈍間の数カ所で土砂崩れが発生し、通行止めとなった。午後5時現在、部連、名柄、佐念、平田、阿室、屋鈍の6集落(228世帯、365人)が孤立。平田、阿室、屋鈍集落では180戸で停電が続いている。

 

屋鈍集落(31世帯)では、床上浸水1件、床下浸水4件の被害があり、屋鈍防災会館に住民約10人が避難した。﨑初夫区長(71)は「停電も重なり、子どもたちが多く身を寄せた。村内でも比較的雨量の少ない地域だが、一部で膝ぐらいまで道が漬かるところもあり、驚いた。被害が長期化しないことを願う」と話した。

 

名柄集落(69世帯)では、二つの川が氾濫し、住宅7戸が浸水被害に遭った。藤原鈴枝さん(67)もその一人。「今朝、外に出ようとしたら家の前が川になっていた。初めてのことで怖かった」と声を震わせた。同集落と瀬戸内町久慈を結ぶ県道は一時復旧したが、倒木などで再び通行止めとなり、藤原さんは「食料は冷蔵庫にあるもので頑張るしかない。とにかくあすは晴れてほしい」と語った。

 

平田集落(63世帯)の田中晴美さん(56)宅は午前11時ごろ、「ドーン」という音と共に、家の基礎部分が崩れたという。「家の横がすぐ川で、避難するか否か、区長さんらと話していた時の出来事。水道管やプロパンガスも引きちぎられ、すぐに元栓を閉めたが、不在時だったら被害は拡大したかもしれない」と途方に暮れた声で話した。

 

町内全域で断水 陸自奄美警備隊が支援 瀬戸内町

 

16日の降り始めからの総雨量が平年の6月ひと月分を上回った瀬戸内町では、21日午後8時半時点で約220戸が停電し、町内ほぼ全域の約4000戸が断水に見舞われている。停電、断水ともに復旧のめどは立っておらず、住民は不安な夜を過ごしている。

 

陸上自衛隊奄美警備隊は、県からの災害派遣要請を受け、同日午前10時半ごろから同町古仁屋のきゅら島交流館で住民への給水支援を実施。奄美駐屯地と瀬戸内分屯地から1トン給水車計4台、隊員約20人が派遣された。

 

給水に訪れた60代女性=古仁屋=は「お昼は昨晩の残り物で済ませ、トイレは雨水を溜めて対応した。断水の経験は初めて。洗濯はどうしよう」と肩を落とした。

 

子ども3人を連れた20代の母親=古仁屋=は「ドラッグストアで水は買えたが、念のため。生後8カ月の子どものミルク作りや、容器を洗うために思うように水が使えなくて大変だった。給水はありがたい」と感謝していた。

 

瀬戸内分屯地普通科中隊の前田章吾二等陸曹は「初めての災害派遣となったが、奄美駐屯地と瀬戸内分屯地で連携を取りスムーズに活動することができた」と話した。

 

21日午前10時から停電が続く節子集落で床上浸水の被害に遭った80代女性は、20日夕方に避難所の節子公民館へ身を寄せ、一晩を過ごした。「午後6時ごろに水が川のように急に流れてきて、床の上まで浸水した。私は歩けないので、区長さんが車で迎えに来て、おんぶして公民館まで連れてきてくれた。2010年の奄美豪雨のことを思い出した。区長さんがいなかったらどうなっていたか」と不安そうに避難時を振り返った。

 

 

 

床上浸水で小学校に避難 大和村

 

大和村では、宇検村側に位置する集落を中心に冠水や土砂崩れが発生。通行止めや住家の床上浸水などもあり、住民の生活にも影響が広がった。

 

名音集落の漁業、勝山仁太さん(30)は20日夕以降、自宅周辺を含む集落一帯を覆い出す雨水に恐怖を感じたという。「自宅前の道路は水があふれ、川のように勢いよく流れていた」。県道沿いで営む鮮魚店も作業場が水に漬かり「もうチンガラ(めちゃくちゃ)」と嘆いた。

 

県道79号の土砂崩れなどで一時、孤立状態となった今里集落では床上浸水の被害も発生。20日に親子3人で今里小学校に避難した福長直大さん(30)は「家は低地にあり、大雨でまずいなと思っていた。午後6時ごろに帰宅し、シャワーを浴び終わると床上まで水が来ていた。勢いが止まらず足首まで浸水した。避難しようと学校に行き、校長先生に連絡すると2階を開放してもらい、安心した」と避難時の様子を振り返った。

 

戸円集落にある特別養護老人ホーム「大和の園」の勝健一郎園長は「(21日の)午前中、近くの県道が数十メートルにわたって、膝下まで冠水した」と説明。

 

一時は、ショートステイでの利用者向けの送迎車が出せなくなったものの、施設は水はけのよい場所に立地していたことから「被害もなく利用者も普段通り」と、胸をなで下ろした。

 

 

観光業にも被害 奄美市住用町

 

大雨の影響は観光業にも広がっている。奄美市住用町の「黒潮の森マングローブパーク」では人気のカヌーツーリングの出発点となっている住用川の増水を受け、21日のカヌー体験をすべて中止し、土産物店と食事処のみ営業した。

 

稲元義人管理課長は「20日は道路冠水で帰宅できず、宿泊したスタッフもいた。カヌー発着所も水没しており、天候次第で23日までカヌー体験を中止する可能性がある」と、豪雨の影響に困惑。兵庫県から訪れた家族連れは「奄美空港から車で来たが、通行止めや被害が発生していることは知らなかった」と驚いた様子で話した。

 

アクティビティ施設「奄美国立観光公園マングローブ茶屋」も同日、カヌー体験はすべて中止に。役勝川沿いに保管していたカヌー約30艇がパイプ製の上架台ごと濁流に流され、川べりに広がったカヌーの回収や清掃作業に追われた。久保ひろし代表(74)は「20日夕方から一気に増水した。危険なか所のカヌーは事前に引き上げていたが、想定より水かさが多く驚いた。ここまでの被害は最近ない。24日には営業を再開したい」と話した。

 

奄美大島世界遺産センターは同日午後4時で臨時閉館した。